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       題しらず 読人知らず  
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   みやこいでて  けふみかの原  いづみ川  川風寒し  衣かせ山
          
     
  • みかの原 ・・・ 瓶原。現在の京都府相楽郡(そうらくぐん)加茂町・大字例弊(れいへい)
  • いづみ川 ・・・ 現在の木津川
  • かせ山 ・・・ 現在の現在の京都府相楽郡木津町・大字鹿背山(かせやま)
  
都を出て、今日は 「みかの原」、「いづみ川」と来て、川風が寒いので衣を「かせ山」、という歌で、地名を折り込んだ駄洒落の歌である。一帯は京都と奈良の間で奈良側に近く、北から南に「みかの原−いづみ川−かせ山」と位置している。また、瓶原のあたりは聖武天皇が恭仁京(くにきょう)を造った場所である。百人一首に中納言兼輔(=藤原兼輔)の歌として、

    みかの原 わきて流るる 泉河 いつ見きとてか 恋しかるらむ

という歌もある(新古今和歌集巻十一996番にも兼輔の歌として採られているが、本来は「古今和歌六帖」の読人知らずの歌であるという)。この百人一首の歌は恋歌として 「いづみ−いつ見」と掛けて泉河の地名が使われている。

  一方、この古今和歌集の歌の方は、羇旅歌のはじめから三番目にあって、歌のつながりとしては安倍仲麻呂の「天の原」、小野篁の「わたの原」に続いて、「原」シリーズを形成している。歌の内容としては、初句でかろうじて羇旅歌の風味を匂わせた後、「今日見た(けふ・かの原)」、「いつ見た(いづ・川)」と掛け合いを演じ、「川風が寒いので衣を貸せ(かせ・山)」と最後も駄洒落で押し切っていて、ここまで徹底していると気持ちがよい。また、初句の "みやこいでて" では字余りでゆったりとさせていて、緩急のリズムもある。

  衣の貸し借りという駄洒落の点では、秋歌上にも次の読人知らずの歌がある。

 
211   
   夜を寒み  衣かり がね  鳴くなへに  萩の下葉も  うつろひにけり
     

( 2001/09/19 )   
(改 2004/03/13 )   
 
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