Top  > 古今和歌集の部屋  > 巻一

       春のはじめによめる 藤原言直  
10   
   春やとき  花やおそきと  聞きわかむ  うぐひすだにも  鳴かずもあるかな
          
     
  • とき ・・・ 早い
  
暦の春が早すぎるのか、花が遅れているのか、それを判断しようにも、基準としたいウグイスの声さえ聞こえない、という歌である。藤原言直(ことなお)は生没年および仔細不明。古今和歌集にはこの一首のみが採られている。

  この歌では、まず、暦では春になっているけれど、実感としての春は来ていないという状態がある。歌の上での"春"は暦の春を指し、"花"は実感としての春に結びついている。この二つに同期がとれていないので、さて、どちらがずれているのか、という判断の基準として、第三の要素であるウグイスを持ち出している。 「春告鳥」と言われるウグイスの声を一番信用がおける春の基準とするなら、
  • ウグイスの声:有 ・・・ 春やとき:×  花やおそき:○
  • ウグイスの声:無 ・・・ 春やとき:○  花やおそき:×
ということになり、それが "鳴かずもあるかな" ということならば、 "春やとき" が正解となるはずである。しかし、ウグイスの声も 「あれば基準の資格を持つが、なければ基準になりえない」ものであれば、その声の不在をもって "春やとき" と判断することはできない

  よってこの歌は、言葉の上では 6番や 15番の歌と同じく 「春−花−鶯」という春のセットを持ちながら、「暦の春がきているだけで実感できることは何もない」という春の不在をテーマにしたものとなっている。

 
       
     
  しかし、それほど小難しく考えなければ、この歌はただ 「ウグイスが鳴いていないのだな」という印象であり、それは続く忠岑の歌も同じである。

 
11   
   春きぬと  人は言へども  うぐひすの    鳴かぬかぎりは   あらじとぞ思ふ
     
        「だにも」という言葉を使った歌の一覧については 79番の歌のページを参照。

 
( 2001/09/18 )   
(改 2004/02/10 )   
 
前歌    戻る    次歌