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"うらめづらしき" の「うら」には衣の裾(すそ)の 「裏」と、「うら悲しい」などで使われる 「どことなく」という意味の 「うら」が掛けられている。歌の意味は、あの人の衣の裾をひるがえしてゆく、思いがけない秋の初風、ということ。 「吹き返す」ではなく 「吹き返し」となっていることで、歌が平坦にならず、吹き巻くような風の動きが表現されているような感じがする。ちなみに 「古今和歌集全評釈(上)」 (1998 片桐洋一 講談社 ISBN4-06-205979-7) によると、俊成本の一部(永暦二年本/昭和切)では 「ふきかへす」と付記があるそうで、それからすると 「す」となっていた異本もあったようである。
"秋の初風" という言葉が何気なく使われているが、「初霜」「初雪」などと比べて、目に見えない風に対して 「初」を付けている点が面白い。これは古今和歌集の他の歌などから類推すると 「立秋が過ぎて初めての秋を感じさせる風」ということであろう。それが 「衣の裾の裏」に視覚化されているのがこの歌のポイントである。
秋風が吹いて裏返すという歌には、823番の平貞文の「秋風の 吹き裏返す くずの葉の」という歌がある。そこでは恋の 「恨み」を出すために 「うら」を使っているが、葉の翻るイメージがこの歌の 「衣の裾」にもあるような気もする。
また、「どことなく」という意味の 「うら」は、852番の貫之の歌で 「浦」に掛けて「塩釜の うらさびしくも 見え渡るかな」と使われている。 |
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