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       題しらず 読人知らず  
319   
   降る雪は  かつぞけぬらし  あしひきの  山のたぎつ瀬  音まさるなり
          
     
  • かつぞけぬらし ・・・ すぐに消えているのだろう
  • たぎつ瀬 ・・・ 水が激しく流れる川瀬
  
降る雪はすぐに消えているのだろう、山の激しい川の音がいっそう増している、という歌。 "山のたぎつ瀬 音まさるなり" という事象から思い起こして、その理由を「きっと雪は降るやいなや、すぐに解けているに違いない」と推定している歌である。

  「けぬらし」の 「け」は 「消ゆ」の連用形である 「きえ」が kie→ke 短縮された形であり、雪が水に消えるということで「 (loss)」を指向し、後半の "音まさる" という 「 (gain)」と対比させている。また、 "たぎつ瀬 の音の騒がしさと、降っては静かに川の中に消えてゆく雪の対比も感じられる。 
「〜ぬらし」というかたちが使われている歌の一覧は 192番の歌のページを参照。

  作者の位置は雪が降っている山の中で、川の様子は見えないけれどその音が聞こえる、という状態なのだろう。続く次の歌では奥山の 「増水」を 「もみぢ葉」に見るということで、この歌と上流/下流として並べられている。

 
320   
   この川に  もみぢ葉流る  奥山の  雪げの水ぞ   今 まさるらし  
     
        またこの歌は、「田村の御時に、女房のさぶらひにて御屏風のゑ御覧じけるに、滝落ちたりける所おもしろし、これを題にてうたよめ、とさぶらふ人に仰せられければよめる」という詞書を持つ、930番の三条町の「思ひせく 心の内の 滝なれや」という歌を思い出させる。

 
( 2001/08/18 )   
(改 2004/03/12 )   
 
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