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       題しらず 読人知らず  
535   
   とぶ鳥の  声も聞こえぬ  奥山の  深き心を  人は知らなむ
          
        空を飛ぶ鳥の声さえ聞こえない奥山のように深い私の心をあの人に知ってほしい、という歌である。未然形についている最後の 「なむ」は願望を表わす終助詞であり、同じような例は 614番の躬恒の歌に「こりぬ心を 人は知らなむ」というものがある。

  飛ぶ鳥の声が聞こえない奥山、という譬えは紋切り型のようだが、縦方向への深さが感じられ、高い木が生い茂って空も見えず日も当たらない暗い森の底を思わせる。普通は続く 536番の「ゆふつけ鳥も 我がごとく/音のみ鳴くらむ」のように、鳥が鳴くことを自分が泣くことに合わせるが、この歌ではそれを捨てて 「鳥の声もとどかない奥山」としているところに特徴があると思われる。

  また、少し強引な考えだが、「とぶとりの」という言葉は「明日香(あすか)」の枕詞にもなることから、一つ前の 534番の歌から続く536番の歌まで、「駿河(富士山)−(奥山)明日香(鳥)−(ゆふつけ鳥)あふ坂」と地名関係で橋渡しをしているようにも見えなくもない。

 
( 2001/10/25 )   
(改 2004/03/14 )   
 
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