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       題しらず 読人知らず  
631   
   こりずまに  またもなき名は  立ちぬべし  人にくからぬ  世にしすまへば
          
     
  • こりずまに ・・・ 懲りないままに
  • なき名 ・・・ 事実でない恋の噂
  • 人にくからぬ ・・・ 嫌な感じではない
  
懲りないままに、また 「なき名」が立つに違いない、嫌いな人ばかりの世に住んでいるわけではないので、という歌。

  "こりずまに" という言葉の響きが面白い。この 「ま」は一見、「間」に見え、「懲りない間に」という意味のように思えるが、「間」という名詞につながる否定ならば、次の躬恒の歌のように 「こりぬ」と 「ず」の連体形の 「ぬ」であるのが自然だろう。

 
614   
   たのめつつ  あはで年ふる  いつはりに  こりぬ 心を  人は知らなむ
     
        よってこの 「ま」は 「まま」と考え、「こりずま」で一つの言葉とみなされる。 「こりずま」の使用例としては後撰和歌集・巻十二800の読人知らずの歌や同じく巻十二865の貫之にも次のような歌があり、「源氏物語」で若菜上で和歌の中に読み込まれているのが有名である。

  [後撰] 800  こりずまの 浦の白浪 立ち出て 寄るほどもなく かへるばかりか
  [後撰] 865  風をいたみ くゆる煙の 立ち出ても なほこりずまの 浦ぞ恋しき

  (若菜上)  沈みしも 忘れぬものを こりずまに 身も投げつべき 宿の藤波
  (若菜上)  身を投げむ 淵もまことの 淵ならで かけじやさらに こりずまの波

  これらの歌では 「こりずま」が 「須磨(の浦)」に掛けられているが、この古今和歌集の歌の中でも最後の句に "世にしすまへば" と 「すま」が繰り返されている。

  古今和歌集の配列で言えば、二つ前の 629番の御春有輔(みはるのありすけ)の歌の「まだきなき名」と "またもなき名" が、ペアになっているようにも見える。 「なき名」という言葉を使った歌の一覧は、その 629番の歌のページを参照。

 
( 2001/12/03 )   
(改 2004/02/26 )   
 
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