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長い詞書の内容は、「東の五条のあたりに親密な関係になった女性がいたが、こっそりと通っていたので門(かど)からは入れず、垣の崩れた所から忍び込んでいた。何度も繰り返すうちに、家の主人がそれを聞きつけてその道に夜毎に見張りをつけたので、近くまでは行くのだけれど逢うことができずに帰ってきて、詠んで贈った」ということ。
歌の方は、秘密の通い路にいる関守は毎晩ごとにうたた寝でもして欲しい、ということで、詞書通り、逢えずに帰ってきた時の歌である。番人がいるのに "人知れぬ" とは少し変な気がするが、人知れぬと思っていた我が通い路に今や立っている関守は、ということなのだろう。
"うちも寝ななむ" は、「(うち+も+寝)+な+なむ」で、はじめの 「うち+も+寝」は、558番の藤原敏行の歌の「うちぬるなかに 行きかよふ」と同じ 「うち寝(ぬ)」(=少し寝る)という動詞の接頭語「うち」の次に、係助詞「も」が入り込んだかたちである。接頭語「うち」が使われている歌の一覧については 12番の歌のページを参照。 「な+なむ」は完了の助動詞「ぬ」の未然形+願望の終助詞「なむ」で、他の歌でこの 「ななむ」が使われている例については 392番の歌のページを参照。
「人知れぬ」という言葉が出てくる歌には他に、次のようなものがある。 |
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