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- あやなくて ・・・ 何の根拠もなしに
- まだき ・・・ 早くも
- なき名 ・・・ 事実でない恋の噂
御春有輔(みはるのありすけ)は生没年不詳、902年左衛門権少志、912年権少尉。古今和歌集には他に 853番の「君が植ゑし ひとむら薄」という一首がとられている。
何の根拠もなしに早くも 「なき名」が広まった、だからといって渡らずに止めるものでもないけれど、という歌。 「なき名」が立つということから 「竜田川」、それに合わせて 「川を渡る」ということで相手と逢うということを言っているのはわかるが、 "渡らでやまむ" という部分がわかりづらい。
「渡らずじっとしていれば−なき名が−止む」のか、「自分が渡らずに止める」ということなのか。 「やま+む」で 「やま」は四段活用の「止む」の未然形だが、「止む」には 「止まる」という意味と 「止める」という意味があるので文法上では判断できない。一般的には 「自分が渡らずに止める」という意味とされ、それに "ものならなくに" がついて 「自分が渡らずに止めるものではないよ」という決意のニュアンスと解釈されている。この場合、「なくに」は文末/区切りにあって否定の詠嘆を表すものである。 「〜なくに」という言葉を使った歌の一覧は 19番の歌のページを参照。
「なき名」が止む、ということだとすると、「なくに」 を順接で見て 「渡らなくとも止むものではないのだから(渡るとしよう)」と見る必要がありそうだが、それ以前に 「竜田川」で 「立つ名」に対して 「止む」という対比は不自然か。 「竜田川」の歌の一覧については 302番の歌のページを参照。
古今和歌集の配列の順でいえば、この歌は一つ前の次の忠岑の歌と 「川+なき名」でつながっており、「なき名」の歌としては、 810番の歌が恋歌五にある以外は四首がここに集められている。
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