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       業平の朝臣のいせの国にまかりたりける時、斎宮なりける人にいとみそかにあひて、またのあしたに人やるすべなくて思ひをりける間に、女のもとよりおこせたりける 読人知らず  
645   
   君やこし  我や行きけむ  思ほえず  夢かうつつか  寝てかさめてか
          
     
  • 思ほえず ・・・ わからない
  詞書は「業平朝臣が伊勢の国に行った時、「斎宮なりける人」にごく密かに逢って次の朝に人を使って連絡をとる手段もなく思い悩んでいる間に、相手から寄せられた」歌ということ。歌の意味は、
あなたが来たのか私が行ったのかもわかりません、寝ての夢だったのか起きての現実だったのか、ということ。 「斎宮なりける人」は文徳天皇の皇女で惟喬親王の妹の恬子(やすいこ)内親王とされている。続く 646番の業平の返しと共に伊勢物語の第六十九段で有名な歌である。

  「夢−うつつ」「寝てか−覚めてか」という後半で揺らしと、"思ほえず" という言葉が柔らかい雰囲気を出している。 「うつつ」という言葉が使われている歌の一覧については 647番のページを、「思ほゆ」という言葉を使った歌の一覧については 33番の歌のページを参照。

  似たような言葉遣いの歌としては恋歌四に次のような読人知らずの歌があり、この 「斎宮なりける人」の歌をベースにしているような感じだが、そちらの方が言葉遣いが古い感じもし、作成時期の前後は不明である。

 
690   
  君やこむ    我やゆかむ の  いさよひに  真木の板戸も  ささず寝にけり
     

( 2001/11/28 )   
(改 2004/01/08 )   
 
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