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       題しらず 読人知らず  
33   
   色よりも  香こそあはれと  思ほゆれ  たが袖ふれし  宿の梅ぞも
          
     
  • あはれ ・・・ いとおしい
  • 思ほゆれ ・・・ 思われる (思ほゆ)
  
梅はその姿よりも香りの方がいとおしく思える、一体この庭の梅は誰の袖が触れたためにこのように香しい(かぐわしい)のか、という歌である。いきなり 「色よりも」と入り、最後に 「宿の梅」を見せる形は大胆だが、調べは柔らかく美しい。 "思ほゆれ" の 「ほ」と最後の 「ぞも」が効いているのであろう。

  花の姿より香りの方が優っている、というのは様々に解釈できる。例えば天女の袖というものを想像して、このような香りがするならば、その姿は目の前の花よりも数段美しいに違いない、ということなのかもしれず、あるいは、41番の躬恒の「春の夜の  闇はあやなし」という歌と同じく、実は闇で花が見えていないのかもしれない。いずれにしても、その香りを運ぶ弱い風のようなものが感じられる歌である。また、この春歌に対し、秋歌上に次のような素性法師のフジバカマの歌がある。

 
241   
   主知らぬ  香こそ 匂へれ  秋の野に  たが脱ぎかけし   藤ばかま ぞも  
     
        言葉のかたちは非常に似ていて、おそらくこの梅の花の歌をベースにしたのではないかと思われる。二つを並べてみると、春の袖と秋の袴(はかま)という対比が面白い。 「ぞも」という言葉を使った歌の一覧は 1007番の歌のページを参照。 また、「あはれ」という言葉を使った歌の一覧は 939番の歌のページを参照。

  「思ほゆ」という言葉を使った歌には次のようなものがある。

 
     
33番    香こそあはれと  思ほゆれ  読人知らず
83番    とく散りぬとも  思ほえ  紀貫之
127番    いるがごとくも  思ほゆるかな  凡河内躬恒
351番    すぐす月日は  思ほえ  藤原興風
415番    心細くも  思ほゆるかな  紀貫之
580番    たちゐの空も  思ほえなくに  凡河内躬恒
645番    我や行きけむ  思ほえ  読人知らず
686番    深くも人の  思ほゆるかな  凡河内躬恒
729番    うつろはむとは  思ほえなくに  紀貫之
845番    君が御影の  思ほゆるかな  小野篁
974番    うらむべきまも  思ほえ  読人知らず
975番    問ふべき人も  思ほえ  読人知らず
1003番    ちぢのなさけも  思ほえ  壬生忠岑
 をさをさしくも  思ほえ
1070番    間なく時なく  思ほゆるかな  読人知らず


 
( 2001/09/11 )   
(改 2004/02/25 )   
 
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