Top  > 古今和歌集の部屋  > 巻一

       題しらず 読人知らず  
34   
   宿近く  梅の花植ゑじ  あぢきなく  待つ人の香に  あやまたれけり
          
     
  • あぢきなく ・・・ 無益に
  
庭の建物近くに梅の花を植えるのはよしましょう、無駄に待つ人の香りと間違えてがっかりします、という歌。女性が女友達に送った手紙のような感じがある。

  "宿近く" の 「近く」は、自分が起居する所の近くということで、近ければ生活空間の中に香りが入り、普通はそれは好ましいことなのだけれど...という意味を持つ。女性形の歌とするのは、恋人が来るのを 「待つ」というかたちをとっているため。 「けり」は詠嘆の助動詞で、梅の香りがふと強まったのを、男が訪ねて近づいてきたその袖の香かと勘違いした自分に気付いて、ため息を漏らす、というような感じであろう。

   "あぢきなく " は、来もしないのに無駄に待つ、と直接は 「待つ」にかかり、頻繁に来ることはない相手だから花の香をもしやと思ってしまう、という意味のつながりがあるが、色香を楽しもうと 「宿近く」植えたこと自体にも 「あぢきなさ」があるので、意味的には全体に掛かると考えてもよいような気がする。 "あぢきなく" という言葉は、143番の素性法師のホトトギスの歌にも「あぢきなく 主さだまらぬ 恋せらるはた」と出てくる。

  また、梅の花の匂いを移り香と間違えるということを、別の角度から詠っているもとのしては、次の読人知らずの歌がある。

 
35   
   梅の花  立ち寄るばかり  ありしより  人のとがむる    香にぞしみぬる  
     

( 2001/12/03 )   
(改 2003/10/11 )   
 
前歌    戻る    次歌