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出発の日は聞こうとは思いません、行ってしまえば、残された私は朝露のように消えてしまうでしょうから、という歌。 「裁つ−発つ」を掛けて、露の縁語で 「置いてゆく」から "けぬ" (=消える)と結んでいる。 641番の歌の「おきて別れし 暁の声」からすれば 「置く−起く」も掛けられているようだが、この歌に限ってはその駄洒落ははずして読んだ方がよいような気もする。
またこの歌には、「このうたは、ある人、つかさをたまはりて新しきめにつきて、年へてすみける人を捨てて、ただ、あすなむたつ、とばかりいへりけるときにともかうもいはでよみてつかはしける」(=この歌は、ある人が官職について新しい妻を娶り、長年一緒に住んだ女性を捨てて、ただ 「明日出て行くから」とだけ言った時に、文句を言わずに詠んで渡した)という長い左注がついている。
たわいもない作り話に見えるが、「明日なむ発つ」と "たつ日は聞かじ" の掛け合いが軽妙で、それでいながら最後の "けぬべきものを" が、「そんなことをしたら自殺してしまうから」と言っているような怖い筋書きとなっている。 "けぬべきものを" と結ばれる歌としては、恋歌三に次の読人知らずの歌がある。
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