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       あふさかにて人を別れける時によめる 難波万雄  
374   
   あふ坂の  関しまさしき  ものならば  あかず別るる  君をとどめよ
          
     
  • まさしき ・・・ 正しい
  • あかず ・・・ 満足できずに
  難波万雄(なにわのよろずを)については生没年および仔細不明。古今和歌集にはこの一首のみが採られている。 "あふ坂の関" は山城と近江の間の逢坂山にあった関所で現在の滋賀県大津市逢坂一丁目あたり。

  
逢坂の関がその名の通りのものならば、名残惜しく別れるこの人を留めるようにしてほしい、という歌。「あふ坂の名には心につくへからす関は人を留る物なれはまさしき関にてあらはの心なり」(契沖「古今余材抄」)のように 「あふ坂」には特に 「逢う」の掛詞を見ないという解釈が一般的である。また、「古今和歌集全評釈  補訂版 」 (1987 竹岡正夫 右文書院 ISBN 4-8421-9605-X) では、「逢坂の関が名ばかりで実際には関所の役目を果たしていなかったころの歌ではないか」と推測されている。

  いずれにせよ、「関所で人を留めよ」というのは「古今和歌集遠鏡」での横井千秋の注に 「
関にて人をとゞむるは常のことなるを。まさしきものならばなど。こと/\しくいふべきにあらず。」とあるように、あまりにも普通すぎるので、「この人は大切なものを持ち出そうとしていますよ」という感じの歌なのではないかと考えておく。

  「あかず」という言葉を使った歌の一覧は 157番の歌のページを参照。他に、別れと 「あふ坂」を合わせたものとしては次の貫之の歌がある。

 
390   
   かつ越えて  別れ もゆくか  あふ坂は   人だのめなる  名にこそありけれ
     
        「あふ坂」を詠った歌を一覧にしてみると次の通り。

 
     
374番    あふ坂  関しまさしき ものならば  難波万雄
390番    あふ坂  人だのめなる 名にこそありけれ  紀貫之
473番    あふ坂  関のこなたに 年をふるかな  在原元方
536番    あふ坂  ゆふつけ鳥も 我がごとく  読人知らず
537番    あふ坂  関に流るる 岩清水  読人知らず
634番    あふ坂  ゆふつけ鳥は 鳴かずもあらなむ  読人知らず
740番    あふ坂  ゆふつけ鳥に あらばこそ  閑院
988番    あふ坂  嵐の風は 寒けれど  読人知らず
1004番    君が代に  あふ坂山の 岩清水  壬生忠岑


 
( 2001/11/27 )   
(改 2004/02/25 )   
 
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