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北へ帰る雁が鳴いている、春連れてきた数が少なくなって帰るために違いない、あれほど泣いているのは、という歌。
この歌には 「このうたは、ある人、男女もろともに人の国へまかりけり、男まかりいたりてすなはち身まかりにければ、女ひとり京へ帰りける道にかへるかりの鳴きけるを聞きてよめる、となむいふ」という左注がついている。夫婦で他国へ行ったのだが、夫がその地で亡くなったので妻が一人で都に帰る途中で、雁が鳴いているのを聞いて詠んだ歌、という言い伝えがある、ということである。
この歌は羇旅歌に置かれいる。蝦夷との戦いに限らず、「数はたらでかへる」ということが、当時の旅には身近に起きることであったのかもしれない。後年、貫之も 「土佐日記」の中(一月十一日)で、任地で没した娘を思う時に次のようにこの歌を思い出している。
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今日はまして母の悲しがらるる事は、下りし時の人の数足らねば、古歌に「数はたらでぞかへるべらなる」といふことを思ひ出でて人のよめる、 世の中に 思ひやれども 子を恋ふる 思ひにまさる 思ひなきかな といひつつなむ。 |
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「鳴くなる」という言葉を使った歌の一覧は 1071番の歌のページを、「べらなる」という言葉を使った歌の一覧については 23番の歌のページを参照。 |
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