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       ある女の、業平の朝臣を所さだめずありきすと思ひて、よみてつかはしける 読人知らず  
706   
   おほぬさの  ひくてあまたに  なりぬれば  思へどえこそ  たのまざりけれ
          
     
  • おほぬさ ・・・ 祓えの時に使われる大きな串についた幣 (大幣)
  詞書にある 「ありきす」とは 「ありき(歩き)・す」で、出歩くこと。特定の女性の元に通うのではなく 「所さだめず」、いろいろな女性の所に行っていると思って詠み送ったということ。

  歌の意味は、
大幣のように引く手あまたのあなたですから、愛しいとは思うけれど頼みにはできませんね、ということ。大幣は、祓えが終わると参列の人々が自分の身に引き寄せて穢れを移し、その後、川に流される。それを取り合う様子を色々な女から "ひくてあまた" なっている業平に譬えたものである。

  "思へどこそ たのまざりけれ" の部分は 「え+打消し」のかたちで 「〜できない」ということで、そこに強調の係助詞「こそ」がついている。最後の 「けれ」は詠嘆の助動詞「けり」が 「こそ」からの係り結びで已然形になったもの。また、ここでの 「たのむ」は四段活用の「頼む」で 「頼みにする」という普通の意味である。 「たのむ」という言葉が使われている他の歌の一覧については 613番の歌のページを参照。続けて業平の次の返しがあるが、それは大幣が最後に川に流されることを利用したものである。

 
707   
   おほぬさと   名にこそたてれ  流れても   つひによる瀬は  ありてふものを
     
        「おほぬさ」という言葉を使った歌をまとめておくと次の通り。 「ぬさ(幣)」については 298番の歌のページを参照。

 
     
706番    おほぬさ  ひくてあまたに なりぬれば  読人知らず
707番    おほぬさ  名にこそたてれ 流れても  在原業平
1040番    いでや心は  おほぬさにして  読人知らず


 
( 2001/11/15 )   
(改 2004/03/09 )   
 
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