0677 |
陸奥の 安積の沼の 花かつみ かつ見る人に 恋ひや渡らむ |
読人知らず |
0678 |
あひ見ずは 恋しきことも なからまし 音にぞ人を 聞くべかりける |
読人知らず |
0679 |
いそのかみ ふるのなか道 なかなかに 見ずは恋しと 思はましやは |
紀貫之 |
0680 |
君と言へば 見まれ見ずまれ 富士の嶺の めづらしげなく もゆる我が恋 |
藤原忠行 |
0681 |
夢にだに 見ゆとは見えじ 朝な朝な 我が面影に はづる身なれば |
伊勢 |
0682 |
石間ゆく 水の白浪 立ち返り かくこそは見め あかずもあるかな |
読人知らず |
0683 |
伊勢の海人の 朝な夕なに かづくてふ みるめに人を あくよしもがな |
読人知らず |
0684 |
春霞 たなびく山の 桜花 見れどもあかぬ 君にもあるかな |
紀友則 |
0685 |
心をぞ わりなきものと 思ひぬる 見るものからや 恋しかるべき |
清原深養父 |
0686 |
枯れはてむ のちをば知らで 夏草の 深くも人の 思ほゆるかな |
凡河内躬恒 |
0687 |
飛鳥川 淵は瀬になる 世なりとも 思ひそめてむ 人は忘れじ |
読人知らず |
0688 |
思ふてふ 言の葉のみや 秋をへて 色もかはらぬ ものにはあるらむ |
読人知らず |
0689 |
さむしろに 衣かたしき 今宵もや 我を待つらむ 宇治の橋姫 |
読人知らず |
0690 |
君やこむ 我やゆかむの いさよひに 真木の板戸も ささず寝にけり |
読人知らず |
0691 |
今こむと 言ひしばかりに 長月の 有明の月を 待ちいでつるかな |
素性法師 |
0692 |
月夜よし 夜よしと人に つげやらば こてふににたり 待たずしもあらず |
読人知らず |
0693 |
君こずは ねやへもいらじ 濃紫 我がもとゆひに 霜は置くとも |
読人知らず |
0694 |
宮城野の もとあらの小萩 露を重み 風を待つごと 君をこそ待て |
読人知らず |
0695 |
あな恋し 今も見てしか 山がつの かきほにさける 大和撫子 |
読人知らず |
0696 |
津の国の なには思はず 山しろの とはにあひ見む ことをのみこそ |
読人知らず |
0697 |
敷島や 大和にはあらぬ 唐衣 ころもへずして あふよしもがな |
紀貫之 |
0698 |
恋しとは たが名づけけむ ことならむ 死ぬとぞただに 言ふべかりける |
清原深養父 |
0699 |
み吉野の 大川のべの 藤波の なみに思はば 我が恋めやは |
読人知らず |
0700 |
かく恋ひむ ものとは我も 思ひにき 心のうらぞ まさしかりける |
読人知らず |
0701 |
天の原 ふみとどろかし なる神も 思ふなかをば さくるものかは |
読人知らず |
0702 |
梓弓 ひき野のつづら 末つひに 我が思ふ人に ことのしげけむ |
読人知らず |
0703 |
夏引きの 手引きの糸を くりかへし ことしげくとも 絶えむと思ふな |
読人知らず |
0704 |
里人の ことは夏野の しげくとも 枯れ行く君に あはざらめやは |
読人知らず |
0705 |
かずかずに 思ひ思はず とひがたみ 身を知る雨は 降りぞまされる |
在原業平 |
0706 |
おほぬさの ひくてあまたに なりぬれば 思へどえこそ たのまざりけれ |
読人知らず |
0707 |
おほぬさと 名にこそたてれ 流れても つひによる瀬は ありてふものを |
在原業平 |
0708 |
須磨の海人の 塩やく煙 風をいたみ 思はぬ方に たなびきにけり |
読人知らず |
0709 |
玉かづら はふ木あまたに なりぬれば 絶えぬ心の うれしげもなし |
読人知らず |
0710 |
たが里に 夜がれをしてか 郭公 ただここにしも 寝たる声する |
読人知らず |
0711 |
いで人は ことのみぞよき 月草の うつし心は 色ことにして |
読人知らず |
0712 |
いつはりの なき世なりせば いかばかり 人の言の葉 うれしからまし |
読人知らず |
0713 |
いつはりと 思ふものから 今さらに たがまことをか 我はたのまむ |
読人知らず |
0714 |
秋風に 山の木の葉の うつろへば 人の心も いかがとぞ思ふ |
素性法師 |
0715 |
蝉の声 聞けばかなしな 夏衣 薄くや人の ならむと思へば |
紀友則 |
0716 |
空蝉の 世の人ごとの しげければ 忘れぬものの かれぬべらなり |
読人知らず |
0717 |
あかでこそ 思はむなかは 離れなめ そをだにのちの 忘れ形見に |
読人知らず |
0718 |
忘れなむと 思ふ心の つくからに ありしよりけに まづぞ恋しき |
読人知らず |
0719 |
忘れなむ 我をうらむな 郭公 人の秋には あはむともせず |
読人知らず |
0720 |
絶えずゆく 飛鳥の川の よどみなば 心あるとや 人の思はむ |
読人知らず |
0721 |
淀川の よどむと人は 見るらめど 流れて深き 心あるものを |
読人知らず |
0722 |
そこひなき 淵やは騒ぐ 山川の 浅き瀬にこそ あだ浪はたて |
素性法師 |
0723 |
紅の 初花染めの 色深く 思ひし心 我忘れめや |
読人知らず |
0724 |
陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れむと思ふ 我ならなくに |
河原左大臣 |
0725 |
思ふより いかにせよとか 秋風に なびくあさぢの 色ことになる |
読人知らず |
0726 |
ちぢの色に うつろふらめど 知らなくに 心し秋の もみぢならねば |
読人知らず |
0727 |
海人の住む 里のしるべに あらなくに うらみむとのみ 人の言ふらむ |
小野小町 |
0728 |
曇り日の 影としなれる 我なれば 目にこそ見えね 身をば離れず |
下野雄宗 |
0729 |
色もなき 心を人に 染めしより うつろはむとは 思ほえなくに |
紀貫之 |
0730 |
めづらしき 人を見むとや しかもせぬ 我が下紐の とけ渡るらむ |
読人知らず |
0731 |
かげろふの それかあらぬか 春雨の 降る日となれば 袖ぞ濡れぬる |
読人知らず |
0732 |
堀江こぐ 棚なし小舟 こぎかへり 同じ人にや 恋ひ渡りなむ |
読人知らず |
0733 |
わたつみと 荒れにし床を 今さらに はらはば袖や 泡と浮きなむ |
伊勢 |
0734 |
いにしへに なほ立ち返る 心かな 恋しきことに もの忘れせで |
紀貫之 |
0735 |
思ひいでて 恋しき時は 初雁の なきて渡ると 人知るらめや |
大友黒主 |
0736 |
たのめこし 言の葉今は かへしてむ 我が身ふるれば 置きどころなし |
藤原因香 |
0737 |
今はとて かへす言の葉 拾ひおきて おのがものから 形見とや見む |
近院右大臣 |
0738 |
玉ぼこの 道はつねにも 惑はなむ 人をとふとも 我かと思はむ |
藤原因香 |
0739 |
待てと言はば 寝てもゆかなむ しひて行く 駒のあし折れ 前の棚橋 |
読人知らず |
0740 |
あふ坂の ゆふつけ鳥に あらばこそ 君がゆききを なくなくも見め |
閑院 |
0741 |
ふるさとに あらぬものから 我がために 人の心の 荒れて見ゆらむ |
伊勢 |
0742 |
山がつの かきほにはへる あをつづら 人はくれども ことづてもなし |
寵 |
0743 |
大空は 恋しき人の 形見かは 物思ふごとに ながめらるらむ |
酒井人真 |
0744 |
あふまでの 形見も我は 何せむに 見ても心の なぐさまなくに |
読人知らず |
0745 |
あふまでの 形見とてこそ とどめけめ 涙に浮ぶ 藻屑なりけり |
藤原興風 |
0746 |
形見こそ 今はあたなれ これなくは 忘るる時も あらましものを |
読人知らず |