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       題しらず 藤原兼輔  
749   
   よそにのみ  聞かましものを  音羽川  渡るとなしに  見なれそめけむ
          
        あなたのことは他人事として聞いておきたかったものを、思いがとげられないのに、どうして見慣れてしまったのだろう、という歌。わかりづらい歌である。

  普通は 「関係を持つ」ことを 「逢う」(ここでは 「渡る」)と表現し、それを婉曲に 「見る」と表すことも多いが、ここでは「姿を見る/知り合う」ということと 「男女の仲になる」ということの間に越えられないギャップがある状況での歌のようである。 "見なれそめけむ" の主語を相手として、「自分は思いをとげられずにいる間に、なぜあなたは他人と親しくなってしまったのだろう」と見ることもできなくはないが、それは一つ前の 748番の藤原仲平の歌に引っ張られ過ぎという感じがする。

  「よそに聞く」ということは、次の読人知らずの歌にもあるように「自分とは関係ないものとして聞く」ということである。 「よそ」という言葉を使った歌の一覧は 37番の歌のページを参照。

 
824   
   秋と言へば  よそにぞ聞きし   あだ人の  我をふるせる  名にこそありけれ
     
        それを "音羽川" の 「音」に掛けて、「よそに」+「音(おと)に聞く」(=噂に聞く)という感じで使い、それを遠くに聞く川の音というイメージに合わせている。また、「見なる」は 「見馴る」と 「水馴る」(=みなる:水に馴れる)を掛け、「渡らないものの−水に馴れる」と「思いをとげないものの−見慣れる」に寄せている。 「そむ」は 「染む」と 「初む」の二つが考えられるが、どちらとも決め難い。

  「〜ましものを」という言葉を使った歌の一覧は 125番の歌のページを参照。

 
( 2001/12/03 )   
(改 2004/02/24 )   
 
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