0747 |
月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ 我が身ひとつは もとの身にして |
在原業平 |
0748 |
花薄 我こそ下に 思ひしか 穂にいでて人に 結ばれにけり |
藤原仲平 |
0749 |
よそにのみ 聞かましものを 音羽川 渡るとなしに 見なれそめけむ |
藤原兼輔 |
0750 |
我がごとく 我を思はむ 人もがな さてもや憂きと 世をこころみむ |
凡河内躬恒 |
0751 |
久方の 天つ空にも すまなくに 人はよそにぞ 思ふべらなる |
在原元方 |
0752 |
見てもまた またも見まくの ほしければ なるるを人は いとふべらなり |
読人知らず |
0753 |
雲もなく なぎたる朝の 我なれや いとはれてのみ 世をばへぬらむ |
紀友則 |
0754 |
花がたみ 目ならぶ人の あまたあれば 忘られぬらむ 数ならぬ身は |
読人知らず |
0755 |
うきめのみ おひて流るる 浦なれば かりにのみこそ 海人は寄るらめ |
読人知らず |
0756 |
あひにあひて 物思ふころの 我が袖に 宿る月さへ 濡るるかほなる |
伊勢 |
0757 |
秋ならで 置く白露は 寝ざめする 我が手枕の しづくなりけり |
読人知らず |
0758 |
須磨の海人の 塩やき衣 をさをあらみ まどほにあれや 君がきまさぬ |
読人知らず |
0759 |
山しろの 淀のわかごも かりにだに 来ぬ人たのむ 我ぞはかなき |
読人知らず |
0760 |
あひ見ねば 恋こそまされ みなせ川 何に深めて 思ひそめけむ |
読人知らず |
0761 |
暁の しぎの羽がき ももはがき 君が来ぬ夜は 我ぞ数かく |
読人知らず |
0762 |
玉かづら 今は絶ゆとや 吹く風の 音にも人の 聞こえざるらむ |
読人知らず |
0763 |
我が袖に まだき時雨の 降りぬるは 君が心に 秋や来ぬらむ |
読人知らず |
0764 |
山の井の 浅き心も 思はぬに 影ばかりのみ 人の見ゆらむ |
読人知らず |
0765 |
忘れ草 種とらましを あふことの いとかくかたき ものと知りせば |
読人知らず |
0766 |
恋ふれども あふ夜のなきは 忘れ草 夢ぢにさへや おひしげるらむ |
読人知らず |
0767 |
夢にだに あふことかたく なりゆくは 我やいを寝ぬ 人や忘るる |
読人知らず |
0768 |
もろこしも 夢に見しかば 近かりき 思はぬなかぞ はるけかりける |
兼芸法師 |
0769 |
ひとりのみ ながめふるやの つまなれば 人をしのぶの 草ぞおひける |
貞登 |
0770 |
我が宿は 道もなきまで 荒れにけり つれなき人を 待つとせしまに |
僧正遍照 |
0771 |
今こむと 言ひて別れし あしたより 思ひくらしの 音をのみぞ鳴く |
僧正遍照 |
0772 |
こめやとは 思ふものから ひぐらしの 鳴く夕暮れは 立ち待たれつつ |
読人知らず |
0773 |
今しはと わびにしものを ささがにの 衣にかかり 我をたのむる |
読人知らず |
0774 |
今はこじと 思ふものから 忘れつつ 待たるることの まだもやまぬか |
読人知らず |
0775 |
月夜には 来ぬ人待たる かきくもり 雨も降らなむ わびつつも寝む |
読人知らず |
0776 |
植ゑていにし 秋田刈るまで 見え来ねば 今朝初雁の 音にぞなきぬる |
読人知らず |
0777 |
来ぬ人を 待つ夕暮れの 秋風は いかに吹けばか わびしかるらむ |
読人知らず |
0778 |
久しくも なりにけるかな 住の江の 松は苦しき ものにぞありける |
読人知らず |
0779 |
住の江の 松ほどひさに なりぬれば あしたづの音に なかぬ日はなし |
兼覧王 |
0780 |
三輪の山 いかに待ち見む 年ふとも たづぬる人も あらじと思へば |
伊勢 |
0781 |
吹きまよふ 野風を寒み 秋萩の うつりもゆくか 人の心の |
雲林院親王 |
0782 |
今はとて 我が身時雨に ふりぬれば 言の葉さへに うつろひにけり |
小野小町 |
0783 |
人を思ふ 心の木の葉に あらばこそ 風のまにまに 散りも乱れめ |
小野貞樹 |
0784 |
天雲の よそにも人の なりゆくか さすがに目には 見ゆるものから |
紀有常女 |
0785 |
行きかへり 空にのみして ふることは 我がゐる山の 風はやみなり |
在原業平 |
0786 |
唐衣 なれば身にこそ まつはれめ かけてのみやは 恋ひむと思ひし |
景式王 |
0787 |
秋風は 身をわけてしも 吹かなくに 人の心の 空になるらむ |
紀友則 |
0788 |
つれもなく なりゆく人の 言の葉ぞ 秋より先の もみぢなりける |
源宗于 |
0789 |
死出の山 麓を見てぞ かへりにし つらき人より まづ越えじとて |
兵衛 |
0790 |
時すぎて 枯れゆく小野の あさぢには 今は思ひぞ 絶えずもえける |
小野小町姉 |
0791 |
冬枯れの 野辺と我が身を 思ひせば もえても春を 待たましものを |
伊勢 |
0792 |
水の泡の 消えてうき身と 言ひながら 流れてなほも たのまるるかな |
紀友則 |
0793 |
みなせ川 ありて行く水 なくはこそ つひに我が身を 絶えぬと思はめ |
読人知らず |
0794 |
吉野川 よしや人こそ つらからめ はやく言ひてし ことは忘れじ |
凡河内躬恒 |
0795 |
世の中の 人の心は 花染めの うつろひやすき 色にぞありける |
読人知らず |
0796 |
心こそ うたてにくけれ 染めざらば うつろふことも 惜しからましや |
読人知らず |
0797 |
色見えで うつろふものは 世の中の 人の心の 花にぞありける |
小野小町 |
0798 |
我のみや 世をうぐひすと なきわびむ 人の心の 花と散りなば |
読人知らず |
0799 |
思ふとも かれなむ人を いかがせむ あかず散りぬる 花とこそ見め |
素性法師 |
0800 |
今はとて 君がかれなば 我が宿の 花をばひとり 見てやしのばむ |
読人知らず |
0801 |
忘れ草 枯れもやすると つれもなき 人の心に 霜は置かなむ |
源宗于 |
0802 |
忘れ草 何をか種と 思ひしは つれなき人の 心なりけり |
素性法師 |
0803 |
秋の田の いねてふことも かけなくに 何を憂しとか 人のかるらむ |
兼芸法師 |
0804 |
初雁の 鳴きこそ渡れ 世の中の 人の心の 秋し憂ければ |
紀貫之 |
0805 |
あはれとも 憂しとも物を 思ふ時 などか涙の いとなかるらむ |
読人知らず |
0806 |
身を憂しと 思ふに消えぬ ものなれば かくてもへぬる 世にこそありけれ |
読人知らず |
0807 |
海人の刈る 藻にすむ虫の 我からと ねをこそなかめ 世をばうらみじ |
藤原直子 |
0808 |
あひ見ぬも 憂きも我が身の 唐衣 思ひ知らずも とくる紐かな |
因幡 |
0809 |
つれなきを 今は恋ひじと 思へども 心弱くも 落つる涙か |
菅野忠臣 |
0810 |
人知れず 絶えなましかば わびつつも なき名ぞとだに 言はましものを |
伊勢 |
0811 |
それをだに 思ふこととて 我が宿を 見きとな言ひそ 人の聞かくに |
読人知らず |
0812 |
あふことの もはら絶えぬる 時にこそ 人の恋しき ことも知りけれ |
読人知らず |
0813 |
わびはつる 時さへものの かなしきは いづこをしのぶ 涙なるらむ |
読人知らず |
0814 |
うらみても 泣きても言はむ 方ぞなき 鏡に見ゆる 影ならずして |
藤原興風 |
0815 |
夕されば 人なき床を うちはらひ なげかむためと なれる我が身か |
読人知らず |
0816 |
わたつみの 我が身こす浪 立ち返り 海人の住むてふ うらみつるかな |
読人知らず |
0817 |
あらを田を あらすきかへし かへしても 人の心を 見てこそやまめ |
読人知らず |
0818 |
ありそ海の 浜の真砂と たのめしは 忘るることの 数にぞありける |
読人知らず |
0819 |
葦辺より 雲ゐをさして 行く雁の いや遠ざかる 我が身かなしも |
読人知らず |
0820 |
時雨つつ もみづるよりも 言の葉の 心の秋に あふぞわびしき |
読人知らず |
0821 |
秋風の 吹きと吹きぬる 武蔵野は なべて草葉の 色かはりけり |
読人知らず |
0822 |
秋風に あふたのみこそ かなしけれ 我が身むなしく なりぬと思へば |
小野小町 |
0823 |
秋風の 吹き裏返す くずの葉の うらみてもなほ うらめしきかな |
平貞文 |
0824 |
秋と言へば よそにぞ聞きし あだ人の 我をふるせる 名にこそありけれ |
読人知らず |
0825 |
忘らるる 身を宇治橋の なか絶えて 人もかよはぬ 年ぞへにける |
読人知らず |
0826 |
あふことを 長柄の橋の ながらへて 恋ひ渡る間に 年ぞへにける |
坂上是則 |
0827 |
浮きながら けぬる泡とも なりななむ 流れてとだに たのまれぬ身は |
紀友則 |
0828 |
流れては 妹背の山の なかに落つる 吉野の川の よしや世の中 |
読人知らず |