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     巻十五  恋歌五

 0747  月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ 我が身ひとつは もとの身にして  在原業平
 0748  花薄 我こそ下に 思ひしか 穂にいでて人に 結ばれにけり  藤原仲平
 0749  よそにのみ 聞かましものを 音羽川 渡るとなしに 見なれそめけむ  藤原兼輔
 0750  我がごとく 我を思はむ 人もがな さてもや憂きと 世をこころみむ  凡河内躬恒
 0751  久方の 天つ空にも すまなくに 人はよそにぞ 思ふべらなる  在原元方
 0752  見てもまた またも見まくの ほしければ なるるを人は いとふべらなり  読人知らず
 0753  雲もなく なぎたる朝の 我なれや いとはれてのみ 世をばへぬらむ  紀友則
 0754  花がたみ 目ならぶ人の あまたあれば 忘られぬらむ 数ならぬ身は  読人知らず
 0755  うきめのみ おひて流るる 浦なれば かりにのみこそ 海人は寄るらめ  読人知らず
 0756  あひにあひて 物思ふころの 我が袖に 宿る月さへ 濡るるかほなる  伊勢
 0757  秋ならで 置く白露は 寝ざめする 我が手枕の しづくなりけり  読人知らず
 0758  須磨の海人の 塩やき衣 をさをあらみ まどほにあれや 君がきまさぬ  読人知らず
 0759  山しろの 淀のわかごも かりにだに 来ぬ人たのむ 我ぞはかなき  読人知らず
 0760  あひ見ねば 恋こそまされ みなせ川 何に深めて 思ひそめけむ  読人知らず
 0761  暁の しぎの羽がき ももはがき 君が来ぬ夜は 我ぞ数かく  読人知らず
 0762  玉かづら 今は絶ゆとや 吹く風の 音にも人の 聞こえざるらむ  読人知らず
 0763  我が袖に まだき時雨の 降りぬるは 君が心に 秋や来ぬらむ  読人知らず
 0764  山の井の 浅き心も 思はぬに 影ばかりのみ 人の見ゆらむ  読人知らず
 0765  忘れ草 種とらましを あふことの いとかくかたき ものと知りせば  読人知らず
 0766  恋ふれども あふ夜のなきは 忘れ草 夢ぢにさへや おひしげるらむ  読人知らず
 0767  夢にだに あふことかたく なりゆくは 我やいを寝ぬ 人や忘るる  読人知らず
 0768  もろこしも 夢に見しかば 近かりき 思はぬなかぞ はるけかりける  兼芸法師
 0769  ひとりのみ ながめふるやの つまなれば 人をしのぶの 草ぞおひける  貞登
 0770  我が宿は 道もなきまで 荒れにけり つれなき人を 待つとせしまに  僧正遍照
 0771  今こむと 言ひて別れし あしたより 思ひくらしの 音をのみぞ鳴く  僧正遍照
 0772  こめやとは 思ふものから ひぐらしの 鳴く夕暮れは 立ち待たれつつ  読人知らず
 0773  今しはと わびにしものを ささがにの 衣にかかり 我をたのむる  読人知らず
 0774  今はこじと 思ふものから 忘れつつ 待たるることの まだもやまぬか  読人知らず
 0775  月夜には 来ぬ人待たる かきくもり 雨も降らなむ わびつつも寝む  読人知らず
 0776  植ゑていにし 秋田刈るまで 見え来ねば 今朝初雁の 音にぞなきぬる  読人知らず
 0777  来ぬ人を 待つ夕暮れの 秋風は いかに吹けばか わびしかるらむ  読人知らず
 0778  久しくも なりにけるかな 住の江の 松は苦しき ものにぞありける  読人知らず
 0779  住の江の 松ほどひさに なりぬれば あしたづの音に なかぬ日はなし  兼覧王
 0780  三輪の山 いかに待ち見む 年ふとも たづぬる人も あらじと思へば  伊勢
 0781  吹きまよふ 野風を寒み 秋萩の うつりもゆくか 人の心の  雲林院親王
 0782  今はとて 我が身時雨に ふりぬれば 言の葉さへに うつろひにけり  小野小町
 0783  人を思ふ 心の木の葉に あらばこそ 風のまにまに 散りも乱れめ  小野貞樹
 0784  天雲の よそにも人の なりゆくか さすがに目には 見ゆるものから  紀有常女
 0785  行きかへり 空にのみして ふることは 我がゐる山の 風はやみなり  在原業平
 0786  唐衣 なれば身にこそ まつはれめ かけてのみやは 恋ひむと思ひし  景式王
 0787  秋風は 身をわけてしも 吹かなくに 人の心の 空になるらむ  紀友則
 0788  つれもなく なりゆく人の 言の葉ぞ 秋より先の もみぢなりける  源宗于
 0789  死出の山 麓を見てぞ かへりにし つらき人より まづ越えじとて  兵衛
 0790  時すぎて 枯れゆく小野の あさぢには 今は思ひぞ 絶えずもえける  小野小町姉
 0791  冬枯れの 野辺と我が身を 思ひせば もえても春を 待たましものを  伊勢
 0792  水の泡の 消えてうき身と 言ひながら 流れてなほも たのまるるかな  紀友則
 0793  みなせ川 ありて行く水 なくはこそ つひに我が身を 絶えぬと思はめ  読人知らず
 0794  吉野川 よしや人こそ つらからめ はやく言ひてし ことは忘れじ  凡河内躬恒
 0795  世の中の 人の心は 花染めの うつろひやすき 色にぞありける  読人知らず
 0796  心こそ うたてにくけれ 染めざらば うつろふことも 惜しからましや  読人知らず
 0797  色見えで うつろふものは 世の中の 人の心の 花にぞありける  小野小町
 0798  我のみや 世をうぐひすと なきわびむ 人の心の 花と散りなば  読人知らず
 0799  思ふとも かれなむ人を いかがせむ あかず散りぬる 花とこそ見め  素性法師
 0800  今はとて 君がかれなば 我が宿の 花をばひとり 見てやしのばむ  読人知らず
 0801  忘れ草 枯れもやすると つれもなき 人の心に 霜は置かなむ  源宗于
 0802  忘れ草 何をか種と 思ひしは つれなき人の 心なりけり  素性法師
 0803  秋の田の いねてふことも かけなくに 何を憂しとか 人のかるらむ  兼芸法師
 0804  初雁の 鳴きこそ渡れ 世の中の 人の心の 秋し憂ければ  紀貫之
 0805  あはれとも 憂しとも物を 思ふ時 などか涙の いとなかるらむ  読人知らず
 0806  身を憂しと 思ふに消えぬ ものなれば かくてもへぬる 世にこそありけれ  読人知らず
 0807  海人の刈る 藻にすむ虫の 我からと ねをこそなかめ 世をばうらみじ  藤原直子
 0808  あひ見ぬも 憂きも我が身の 唐衣 思ひ知らずも とくる紐かな  因幡
 0809  つれなきを 今は恋ひじと 思へども 心弱くも 落つる涙か  菅野忠臣
 0810  人知れず 絶えなましかば わびつつも なき名ぞとだに 言はましものを  伊勢
 0811  それをだに 思ふこととて 我が宿を 見きとな言ひそ 人の聞かくに  読人知らず
 0812  あふことの もはら絶えぬる 時にこそ 人の恋しき ことも知りけれ  読人知らず
 0813  わびはつる 時さへものの かなしきは いづこをしのぶ 涙なるらむ  読人知らず
 0814  うらみても 泣きても言はむ 方ぞなき 鏡に見ゆる 影ならずして  藤原興風
 0815  夕されば 人なき床を うちはらひ なげかむためと なれる我が身か  読人知らず
 0816  わたつみの 我が身こす浪 立ち返り 海人の住むてふ うらみつるかな  読人知らず
 0817  あらを田を あらすきかへし かへしても 人の心を 見てこそやまめ  読人知らず
 0818  ありそ海の 浜の真砂と たのめしは 忘るることの 数にぞありける  読人知らず
 0819  葦辺より 雲ゐをさして 行く雁の いや遠ざかる 我が身かなしも  読人知らず
 0820  時雨つつ もみづるよりも 言の葉の 心の秋に あふぞわびしき  読人知らず
 0821  秋風の 吹きと吹きぬる 武蔵野は なべて草葉の 色かはりけり  読人知らず
 0822  秋風に あふたのみこそ かなしけれ 我が身むなしく なりぬと思へば  小野小町
 0823  秋風の 吹き裏返す くずの葉の うらみてもなほ うらめしきかな  平貞文
 0824  秋と言へば よそにぞ聞きし あだ人の 我をふるせる 名にこそありけれ  読人知らず
 0825  忘らるる 身を宇治橋の なか絶えて 人もかよはぬ 年ぞへにける  読人知らず
 0826  あふことを 長柄の橋の ながらへて 恋ひ渡る間に 年ぞへにける  坂上是則
 0827  浮きながら けぬる泡とも なりななむ 流れてとだに たのまれぬ身は  紀友則
 0828  流れては 妹背の山の なかに落つる 吉野の川の よしや世の中  読人知らず

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