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       題しらず 藤原仲平  
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   花薄  我こそ下に  思ひしか  穂にいでて人に  結ばれにけり
          
        藤原仲平は藤原基経の次男で 875年生れ、945年没。没年七十一歳。時平の弟。 890年正五位下、894年従四位下、901年従四位上、907年正四位下、926年正三位、933年右大臣、937年左大臣、943年正二位。

  この歌は伊勢集のはじめの歌物語部分にも含まれており、伊勢との関係の歌として解釈されることが多い。そこで今、おおまかなストーリーをまとめてみると次の通り。
  • 生年 ・・・ 時平(871年)/温子(872年)/仲平(875年)/伊勢(不明)
  • 888年温子が宇多天皇の女御になる/伊勢が温子に仕えはじめる
  • 伊勢と仲平が恋仲になる
  • 時平が伊勢に言い寄る
  • 伊勢と仲平が不仲になる
  • 伊勢が父の任地である大和に行く (891年以降)
  • 温子から伊勢に都へ戻るように要請がある
  • 伊勢が都へ戻る
  • 時平・その他が伊勢に言い寄る
  • 伊勢が宇多天皇の子を産む
  一般的にこの歌は、こうした流れの中で 「仲平−伊勢−時平」の関係と結びつけて解釈される。

  歌の意味は、
自分こそ心の中で思っていたのに、公然の仲として、あなたは他の人と結ばれてしまった、ということ。 "人に" が、「自分があなたに」ではなく、「あなたが他人に」ということである点がややわかりづらい。

  「穂に出づ」とは隠していた気持ちなどを明らかにすることだが、ここでは自分が 「下に」(=心の中で)思っていたのに、それを 「穂」に出し実を結ぶことがないまま、そうこうしているうちにあなたは、別の人との秘められた関係を明らかにして結ばれてしまった、というような感じで使っている。 
「穂に出づ」という表現を使った歌の一覧は 243番の歌のページを参照。

  男女の仲を 「結ばれる」と表現する歌は古今和歌集には意外に少なく、この仲平の歌と恋歌一にある次の読人知らずの歌に見えるだけである。

 
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   よそにして  恋ふれば苦し  入れ紐の  同じ心に  いざ結びてむ  
     
        "思ひしか" の 「しか」は前の 「こそ」からの係り結びを受けて、過去を表す助動詞「き」が已然形になったもの。この 「しか」が使われている歌の一覧は 172番の歌のページを参照。

 
( 2001/11/05 )   
(改 2004/02/26 )   
 
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