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それだけでもと思うこととして、私の家を見たとは言わないでください、人が聞くこともあるでしょうから、という歌。 はじめの "それをだに 思ふこととて" という部分がよくわからない歌である。
そもそも、「思ふ」の主語は誰か。 「古今和歌集全評釈(中)」 (1998 片桐洋一 講談社 ISBN4-06-205980-0) では、「思ふ」の主語を作者として「せめてそれだけをただ一つ私が願っていることとだと理解して」と訳している。確かにそう見ると、「それ」が指している内容は三句目以降となり、宙ぶらりんの(ように見える)代名詞の指す対象が見つかると共に、別れを覚悟した状況での 「人知れず絶えむ」という気持ちを一つ前の 810番の伊勢の歌から引継ぎ、理屈としてはよく合うようである。一方、「思ふ」の主語を相手とすると、別に大丈夫だと思って「あの家の中の様子はよく知っている」などと漏らしてはいけません、確かによく知っているでしょうけれど、誰が聞いているかわかりませんから、という感じか。これだと "人の聞かくに" という感じがよくわかるような気もする。どちらとも判断がつけづらい。
言葉の意味としては、「だに」は 「せめて・〜さえ」ということであり、「こととて」は 「こととして」ということである。 「だに」という言葉を使った歌の一覧については 48番の歌のページを参照。
"人の聞かくに" の 「聞かくに」は、「聞か+く+に」で、「聞く」の未然形+準体助詞「く」+間投助詞「に」。 「(どこかで誰かが)聞いているものなので」という感じか。
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