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       冬の長歌 凡河内躬恒  
1005   
    ちはやぶる  神無月とや  今朝よりは  雲りもあへず  初時雨  紅葉と共に  ふるさとの
  吉野の山の  山嵐も  寒く日ごとに  なりゆけば  玉の緒とけて  こき散らし  あられ乱れて
  霜こほり  いや固まれる  庭の面に  むらむら見ゆる  冬草の  上に降りしく  白雪の
  つもりつもりて  あらたまの  年をあまたも  すぐしつるかな
          
     
  • 神無月 ・・・ 旧暦十月
  • 玉の緒 ・・・ 珠をつなぐ紐
  • こき散らし ・・・ 振り落として撒き散らす
  • むらむら ・・・ あちらこちらに群がっている様子
  "雲りもあへず"は 「曇ることもできずに」ということだが、少しわかりづらい。晴れ・曇り・雨という天気の分類で考えて、「曇りの状態も維持できずに」という感じか。

  時雨の雨が降ったり止んだりして紅葉を濡らしつつ、徐々に風は強く冷たくなってゆき、次第にそこには霰(あられ)が混じるようになってゆく、という前半の流れは 「時雨」と 「霰」の入れ替え方が面白い。そして 「霰−霜」というつながりから視点を近く 「庭」に落とし、冬草の上の白雪を見せて「むらむら−つもりつもりて」と反復の言葉を出しながら 「つもる−年」を多く過す、と結びにつなげている。冬の入口である旧暦十月から、まるでイメージを "玉の緒" で数珠つながりにするように連ねた後、「冬」という氷を何層にも重ねて、その上に坐して白湯を飲んでいるような感じの歌である。

 
( 2001/12/12 )   
(改 2004/12/28 )   
 
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