巻一 |
0030 |
春くれば 雁かへるなり 白雲の 道ゆきぶりに ことやつてまし |
春歌上 |
巻一 |
0040 |
月夜には それとも見えず 梅の花 香をたづねてぞ 知るべかりける |
春歌上 |
巻一 |
0041 |
春の夜の 闇はあやなし 梅の花 色こそ見えね 香やは隠るる |
春歌上 |
巻一 |
0067 |
我が宿の 花見がてらに くる人は 散りなむのちぞ 恋しかるべき |
春歌上 |
巻二 |
0086 |
雪とのみ 降るだにあるを 桜花 いかに散れとか 風の吹くらむ |
春歌下 |
巻二 |
0104 |
花見れば 心さへにぞ うつりける 色にはいでじ 人もこそ知れ |
春歌下 |
巻二 |
0110 |
しるしなき 音をも鳴くかな うぐひすの 今年のみ散る 花ならなくに |
春歌下 |
巻二 |
0120 |
我が宿に 咲ける藤波 立ち返り すぎがてにのみ 人の見るらむ |
春歌下 |
巻二 |
0127 |
梓弓 春たちしより 年月の いるがごとくも 思ほゆるかな |
春歌下 |
巻二 |
0132 |
とどむべき ものとはなしに はかなくも 散る花ごとに たぐふ心か |
春歌下 |
巻二 |
0134 |
今日のみと 春を思はぬ 時だにも 立つことやすき 花のかげかは |
春歌下 |
巻三 |
0161 |
郭公 声も聞こえず 山彦は ほかになく音を 答へやはせぬ |
夏歌 |
巻三 |
0164 |
郭公 我とはなしに 卯の花の うき世の中に 鳴き渡るらむ |
夏歌 |
巻三 |
0167 |
塵をだに すゑじとぞ思ふ 咲きしより 妹と我が寝る 常夏の花 |
夏歌 |
巻三 |
0168 |
夏と秋と 行きかふ空の かよひぢは かたへ涼しき 風や吹くらむ |
夏歌 |
巻四 |
0179 |
年ごとに あふとはすれど 七夕の 寝る夜の数ぞ 少なかりける |
秋歌上 |
巻四 |
0180 |
七夕に かしつる糸の うちはへて 年のを長く 恋ひや渡らむ |
秋歌上 |
巻四 |
0190 |
かくばかり 惜しと思ふ夜を いたづらに 寝て明かすらむ 人さへぞうき |
秋歌上 |
巻四 |
0213 |
憂きことを 思ひつらねて 雁がねの 鳴きこそわたれ 秋の夜な夜な |
秋歌上 |
巻四 |
0219 |
秋萩の 古枝に咲ける 花見れば もとの心は 忘れざりけり |
秋歌上 |
巻四 |
0233 |
つま恋ふる 鹿ぞ鳴くなる 女郎花 おのがすむ野の 花と知らずや |
秋歌上 |
巻四 |
0234 |
女郎花 吹きすぎてくる 秋風は 目には見えねど 香こそしるけれ |
秋歌上 |
巻五 |
0277 |
心あてに 折らばや折らむ 初霜の 置き惑はせる 白菊の花 |
秋歌下 |
巻五 |
0304 |
風吹けば 落つるもみぢ葉 水清み 散らぬ影さへ 底に見えつつ |
秋歌下 |
巻五 |
0305 |
立ち止まり 見てをわたらむ もみぢ葉は 雨と降るとも 水はまさらじ |
秋歌下 |
巻五 |
0313 |
道知らば たづねもゆかむ もみぢ葉を ぬさとたむけて 秋はいにけり |
秋歌下 |
巻六 |
0329 |
雪降りて 人もかよはぬ 道なれや あとはかもなく 思ひ消ゆらむ |
冬歌 |
巻六 |
0338 |
我が待たぬ 年はきぬれど 冬草の 枯れにし人は おとづれもせず |
冬歌 |
巻七 |
0358 |
山高み 雲ゐに見ゆる 桜花 心のゆきて 折らぬ日ぞなき |
賀歌 |
巻七 |
0360 |
住の江の 松を秋風 吹くからに 声うちそふる 沖つ白浪 |
賀歌 |
巻八 |
0382 |
かへる山 なにぞはありて あるかひは きてもとまらぬ 名にこそありけれ |
離別歌 |
巻八 |
0383 |
よそにのみ 恋ひや渡らむ 白山の 雪見るべくも あらぬ我が身は |
離別歌 |
巻八 |
0399 |
別るれど うれしくもあるか 今宵より あひ見ぬ先に 何を恋ひまし |
離別歌 |
巻九 |
0414 |
消えはつる 時しなければ 越路なる 白山の名は 雪にぞありける |
羇旅歌 |
巻九 |
0416 |
夜を寒み 置く初霜を はらひつつ 草の枕に あまた旅寝ぬ |
羇旅歌 |
巻十一 |
0481 |
初雁の はつかに声を 聞きしより 中空にのみ 物を思ふかな |
恋歌一 |
巻十二 |
0580 |
秋霧の 晴るる時なき 心には たちゐの空も 思ほえなくに |
恋歌二 |
巻十二 |
0584 |
ひとりして 物を思へば 秋の夜の 稲葉のそよと 言ふ人のなき |
恋歌二 |
巻十二 |
0600 |
夏虫を 何か言ひけむ 心から 我も思ひに もえぬべらなり |
恋歌二 |
巻十二 |
0608 |
君をのみ 思ひねに寝し 夢なれば 我が心から 見つるなりけり |
恋歌二 |
巻十二 |
0611 |
我が恋は ゆくへも知らず はてもなし あふをかぎりと 思ふばかりぞ |
恋歌二 |
巻十二 |
0612 |
我のみぞ かなしかりける 彦星も あはですぐせる 年しなければ |
恋歌二 |
巻十二 |
0614 |
たのめつつ あはで年ふる いつはりに こりぬ心を 人は知らなむ |
恋歌二 |
巻十三 |
0636 |
長しとも 思ひぞはてぬ 昔より あふ人からの 秋の夜なれば |
恋歌三 |
巻十三 |
0662 |
冬の池に すむにほ鳥の つれもなく そこにかよふと 人に知らすな |
恋歌三 |
巻十三 |
0663 |
笹の葉に 置く初霜の 夜を寒み しみはつくとも 色にいでめや |
恋歌三 |
巻十四 |
0686 |
枯れはてむ のちをば知らで 夏草の 深くも人の 思ほゆるかな |
恋歌四 |
巻十五 |
0750 |
我がごとく 我を思はむ 人もがな さてもや憂きと 世をこころみむ |
恋歌五 |
巻十五 |
0794 |
吉野川 よしや人こそ つらからめ はやく言ひてし ことは忘れじ |
恋歌五 |
巻十六 |
0840 |
神無月 時雨に濡るる もみぢ葉は ただわび人の 袂なりけり |
哀傷歌 |
巻十七 |
0929 |
風吹けど ところも去らぬ 白雲は 世をへて落つる 水にぞありける |
雑歌上 |
巻十八 |
0956 |
世を捨てて 山にいる人 山にても なほ憂き時は いづち行くらむ |
雑歌下 |
巻十八 |
0957 |
今さらに なにおひいづらむ 竹の子の うき節しげき 世とは知らずや |
雑歌下 |
巻十八 |
0976 |
水の面に おふる五月の 浮草の うきことあれや 根を絶えて来ぬ |
雑歌下 |
巻十八 |
0977 |
身を捨てて ゆきやしにけむ 思ふより 外なるものは 心なりけり |
雑歌下 |
巻十八 |
0978 |
君が思ひ 雪とつもらば たのまれず 春よりのちは あらじと思へば |
雑歌下 |
巻十九 |
1005 |
ちはやぶる 神無月とや 今朝よりは 雲りもあへず 初時雨... |
雑体 |
巻十九 |
1015 |
むつごとも まだつきなくに 明けぬめり いづらは秋の 長してふ夜は |
雑体 |
巻十九 |
1035 |
蝉の羽の 一重に薄き 夏衣 なればよりなむ ものにやはあらぬ |
雑体 |
巻十九 |
1067 |
わびしらに ましらな鳴きそ あしひきの 山のかひある 今日にやはあらぬ |
雑体 |