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- とまるものとは ・・・ 留まるものとしては
- よそに ・・・ 遠くに
詞書にある 「七条のきさき」は藤原温子で、その没年は 907年六月。この歌はおそらくその年の秋に詠まれたものであろう。
哀傷の歌としては、いきなり "沖つ浪" と出てくるので驚くが、その後は 「荒れて−舟が流され−血の涙を流し−時雨で紅の紅葉が散り−頼む影(蔭)がなくー残るものは花薄のみ−袖が空を招くようになびく−初雁がなき渡る」とわかりやすいイメージでつなげている。
ただ、最後の "よそにこそ見め" という部分は少しわかりづらい。 「花薄がむなしく空を招く」のは地上から后が昇天した空に「戻ってきて欲しい」という動作であり、「初雁がなき渡りながら「よそ」に見る」のは上空から悲しみながらも后の居なくなった場所を遠く見る、ということ。その雁を伊勢自身と重ね合わせて見れば、もう "たのむかげ" がなくなってしまったので、かつて親しんだ「君の庭」も自分から切り離されたもののように見える、ということであろう。文法的には 「よそに+こそ+見+め」で、「見(み)」は 「見る」の未然形、「め」は推量の助動詞「む」の已然形である。
「たのむかげがなくなった」という歌としては、292番に「たのむかげなく もみぢ散りけり」という僧正遍照の歌があり、「よそに見る」という歌としては、266番の読人知らずの歌に「ははそのもみぢ よそにても見む」というものがある。
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