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       題しらず 読人知らず  
208   
   我が門に  いなおほせ鳥の  鳴くなへに  今朝吹く風に  雁はきにけり
          
     
  • なへに ・・・ 〜するにつれて
  
家の門の近くで「いなおほせ鳥」が鳴くにつれて、今朝吹く風に雁はやってきた、という歌である。
"いなほせ鳥" は、秋歌下にある 306番の壬生忠岑の歌にも「いなおほせ鳥の 涙なりけり」とあるが、それがどんな鳥かは不明であるとされる。そのため 「古今伝授」の三鳥の一つとされ、
「和歌秘伝鈔」 (1941 飯田季治 畝傍書房) では、「古今伝授」の本文として 「稲負鳥」について次のような説を紹介している。
  • 稲負鳥は鶺鴒(にはくなぶり)、つまりセキレイのことである。
  • イサナギノミコトとイザナミノミコトはこの鳥を見て 「交(とつぎ)」の方法を知った。
  • よって、この鳥は 「とつぎ鳥」と呼ばれる。
  • この鳥が鳴く頃、秋の田の収穫を行なう。
  • また、この鳥は牛馬に稲を負わせて運ぶことを民に教えた。
  • その尾の動きが牛馬に稲を負わせて運ぶ様に似ている。
  • そのため稲負鳥は牛馬のことを指すこともある。
  • また、実った稲は 「こがれ輝く」ので稲負鳥の 「こがれ羽」とも言う。
  最後の 「こがれ」がよくわからないが、一応 「稲負鳥」はセキレイのこととしている。飯田氏はその評釈として 「稲負鳥」はセキレイということでよい、ただし 「稲負鳥」と言う裏には 「稲課せ取」ということで 「収税吏」(=税を取り立てる役人)の意味がある、としている。セキレイが 「稲負鳥」の正体とすれば、収税吏はその化体であって、これは 「
俗に 「あいすくりいむ」という語に氷菓子(こおりがし)という正体と高利貸(こうりがし)という化体との二義があるがごとき物」と解説している。

  また、この本文の奥書には1472年の一条兼良の古今三鳥に関する口伝が記されていて、その中で兼良は、どうしても名前を定めなければならない時には 「呼子鳥=ツツドリ」「百千鳥=ウグイス」「稲負鳥=セキレイ」とせよ、ただし本来これらの三鳥は名前があって実体がないところにポイントがあるのであって、呼子鳥は物音を立てるものの総称、百千鳥は春に鳴く鳥の総称、稲負鳥は秋に鳴く鳥の総称と心得て、呼子鳥を猿だと言っても馬鹿にしてはいけない、というようなことを述べている。

  こう見ると "いなほせ鳥" はセキレイということで落ち着きそうだが、直感的にはその羽の模様から 「稲負鳥」はスズメであった方がわかりやすい気がする。

  さて、この歌の特徴は鳥に鳥を合わせている点にあるが、同じ 「なへに」という言葉を使った
 204番の「ひぐらしの  鳴きつるなへに」という歌と並べてみると、やはりこの歌でも 「いなおほせ鳥」は背景効果として扱われていることがわかる。そろそろ秋の田の穂が実りはじめる頃、「いなおほせ鳥」はそれを目当てにしてか朝から騒がしくなり、そうしているうちに秋の風に乗って主役が登場、という感じであろうか。

  「なへに」という言葉を使った歌の一覧は 211番の歌のページを、「吹く風」を詠った歌の一覧については 99番の歌のページを参照。

 
( 2001/10/10 )   
(改 2004/02/24 )   
 
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