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       題しらず 読人知らず  
209   
   いとはやも  鳴きぬる雁か  白露の  色どる木ぎも  もみぢあへなくに
          
        何とも気の早いことにもう鳴き渡ってきた雁であることか、まだ白露が彩る木々も充分紅葉できずにいるのに、という歌。 「まだ開店前ですよ、お客さん」という感じか。

  白露が木々を紅葉に染めるという歌としては、 257番に「白露の 色はひとつを いかにして 秋の木の葉を ちぢに染むらむ」という藤原敏行の歌がある。

  この歌のはじめにある 「いと」(=とても)という言葉を使った歌には次のようなものがある。このうち 753番の歌は「いと晴れるー厭はれる」を掛け、805番の歌は 「いと流るー暇(いと)無かる」を掛けている。

 
     
209番    いとはやも  鳴きぬる雁か 白露の  読人知らず
554番    いとせめて  恋しき時は むばたまの  小野小町
753番    いとはれてのみ  世をばへぬらむ  紀友則
765番    いとかくかたき  ものと知りせば  読人知らず
805番    などか涙の  いとなかるらむ  読人知らず


 
        また、545番や 971番の歌で使われている 「いとど」(=いっそう)という言葉は、「いと」の繰り返し 「いといと」から来ていると言われている。

  "もみぢあへなくに" は 「もみぢ+あへ+なくに」で、「もみづ」の連用形+下二段活用の(補助)動詞「敢ふ(あふ)」の未然形+「なくに」。 「もみぢあへなく」は、7番の歌のページで一覧している 「動詞+あへ+ず」(=〜しきれない)と同じ意味と考えられる。

  ここでの 「なくに」は、「白露の 色どる木ぎも もみぢあへなくに」を先頭に回して倒置のかたちと見て、逆接(=もみじしきれないのに)と考えておきたい。倒置せずに文末/区切りの否定の詠嘆として 「もみじしきれていないのになあ」と見ても意味は通るが、歌全体としては 「雁」の声の方が詠嘆のメインであるように思えるからである。 「〜なくに」という言葉を使った歌の一覧については 19番の歌のページを参照。

 
( 2001/12/07 )   
(改 2004/03/05 )   
 
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