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       これさだのみこの家の歌合せによめる 壬生忠岑  
258   
   秋の夜の  露をば露と  置きながら  雁の涙や  野辺を染むらむ
          
        秋の野辺の草木が紅葉するのは、地に敷く 「夜の露」のせいばかりではなく、空から降る 「雁の涙」が調合されるためか、という歌である。 「雁の涙」と「露」の組み合わせは次の読人知らずの歌にあるが、それを広角にしてとらえた感じがある。

 
221   
   鳴き渡る  雁の涙や   落ちつらむ  物思ふ宿の  萩の上の露  
     
        一方、涙が紅葉させるという因果関係ではなく、「雁の声」を秋の段階を示す一つの時計として 「もみぢ」と関連させて詠ったものとしては、次の読人知らずの歌がある。

 
252   
   霧立ちて  雁ぞ鳴くなる   片岡の  朝の原は  もみぢしぬらむ  
     
        また、この忠岑の歌の前後には 257番の藤原敏行の「白露の 色はひとつを いかにして」という歌と、259番の読人知らずの「秋の露 色いろことに 置けばこそ」という歌があるが、これら三つの歌に渦巻く 「白露−雁−色づく草木」というイメージは(歌の内容は異なるが)秋歌上に置かれた次の読人知らずの歌の中で先行して提示されている。

 
209   
   いとはやも  鳴きぬる 雁か    白露の    色どる 木ぎも  もみぢあへなくに
     

( 2001/12/07 )   
(改 2003/11/17 )   
 
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