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       春宮のむまれたまへりける時にまゐりてよめる 藤原因香  
364   
   峰高き  春日の山に  いづる日は  曇る時なく  照らすべらなり
          
        峰が高くそびえる、春日の山に昇る太陽は、曇る時なく世を照らすことでしょう、という歌。

  藤原因香(よるか)は藤原高藤と尼敬信の娘で、871年従五位下、897年従四位下。この歌で詠われている「春宮」とは醍醐天皇の第二皇子である保明親王のことである。その生年は 903年、母は藤原穏子(藤原時平の妹)。保明親王は二歳で皇太子とされたが、923年二十一歳で没。誕生の時のこの慶びの歌は、若くして亡くなった皇太子の生涯を思うと逆に悲しく感じられる。保明親王の没後、その子である慶頼親王が皇太子とされるが、慶頼親王も 925年五歳で亡くなっている。

 
        藤原因香の歌は、この歌以外にあと三首が古今和歌集に採られている。このうち736番の歌は近院右大臣(=源能有(よしあり))の返しがあるので、能有の没年である 897年以前のものであることがわかる。

 
80   
   たれこめて  春のゆくへも  知らぬ間に  待ちし桜も  うつろひにけり
     
736   
   たのめこし  言の葉今は  かへしてむ  我が身ふるれば  置きどころなし
     
738   
   玉ぼこの  道はつねにも  惑はなむ  人をとふとも  我かと思はむ
     
        「べらなり」という言葉を使った歌の一覧については 23番の歌のページを参照。

 
( 2001/09/18 )   
(改 2004/03/13 )   
 
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