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詞書は 「桂にいる時に、七条の中宮(=藤原温子)が様子を尋ねる便りを下さった時に、その返事におくった」歌ということ。 「七条の中宮」は、宇多天皇の后で、伊勢が仕えていた藤原温子のこと。温子には子がなく、伊勢は温子の兄弟と浮名を流し、その後、温子の夫である宇多天皇との間に男子をもうけたが、温子と伊勢の仲は悪くなかったことがこの歌や 1006番の長歌などからもうかがえる。 「伊勢集」では、この歌の背景は、伊勢が子供を桂にある家に置いて温子のところで仕えていた時、伊勢が雨の降るのをぼんやりと眺めているのを、温子がかわいそうに思って、
月のうちに 桂の人を思ふとや 雨に涙の そひて降るらむ
と言い掛けた歌に対して答えた歌ということになっている。古今和歌集の詞書では、伊勢が桂にいて、そこで温子からの文をもらったことになっているが、状況的にはほぼ同じである。つまり、月に桂があるという言い伝えを元に、ここで詠われているのは伊勢自身や桂の場所のことではなく、桂の家にいる伊勢の子供のことである。
歌の意味は、月の中にある里ですので、そこで育つものはみな、その光を頼みにしていることでしょう、ということ。月の光を七条の中宮の恩恵に譬えている。 「久方の」という枕詞を使った歌の一覧は 269番の歌のページを、 「たのむ」を使った歌の一覧については 613番の歌のページを、「べらなる」を使った歌の一覧については 23番の歌のページを参照。
古今和歌集の配列からすれば、 「光」で前の清原深養父とつながり、「里」で次の在原業平に送る位置に置かれている。
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