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       かむなりのつぼにめしたりける日、大御酒などたうべて雨のいたく降りければ、夕さりまで侍りてまかりいでけるをりに、盃をとりて 紀貫之  
397   
   秋萩の  花をば雨に  濡らせども  君をばまして  惜しとこそ思へ
          
        詞書は「雷鳴の壺(=襲芳舎)に召された日、御酒などをいただいている間、雨がひどく降っていたので、夕方まで待って退出する際に、盃を取って」詠んだ歌、ということ。最後が 「盃をとりて」と中途半端で終わっている。この歌は続く 398番の歌に返しがあり、 "君" とは、兼覧王(かねみのおおきみ)のことだとわかる。

  
秋萩の花を雨に濡らすのも惜しいことですが、それに増して惜しいことはあなたとお別れすることです、という歌。 "をば" が二回繰り返されて、ある種のリズムを作っていると言えないこともない。また、雨が上がってしまえばもうお別れしなくてはならない、と言っているとも考えられる。

  詞書に 「雷鳴の壺」で詠まれたと記述がある歌としては、他に次の躬恒の歌がある。時間は夜であるが、この歌も季節は秋である。

 
190   
   かくばかり  惜しと思ふ夜を   いたづらに  寝て明かすらむ  人さへぞうき
     
        「(秋)萩」を詠った歌の一覧は 198番の歌のページを参照。また、「〜をば〜こそ」というかたちを持った歌の一覧は 278番の歌のページを参照。

 
( 2001/10/10 )   
(改 2004/03/09 )   
 
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