巻一 |
0002 |
袖ひちて むすびし水の こほれるを 春立つ今日の 風やとくらむ |
春歌上 |
巻一 |
0009 |
霞立ち 木の芽もはるの 雪降れば 花なき里も 花ぞ散りける |
春歌上 |
巻一 |
0022 |
春日野の 若菜つみにや 白妙の 袖ふりはへて 人のゆくらむ |
春歌上 |
巻一 |
0025 |
我が背子が 衣はるさめ ふるごとに 野辺の緑ぞ 色まさりける |
春歌上 |
巻一 |
0026 |
青柳の 糸よりかくる 春しもぞ 乱れて花の ほころびにける |
春歌上 |
巻一 |
0039 |
梅の花 匂ふ春べは くらぶ山 闇に越ゆれど しるくぞありける |
春歌上 |
巻一 |
0042 |
人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香に匂ひける |
春歌上 |
巻一 |
0045 |
くるとあくと 目かれぬものを 梅の花 いつの人まに うつろひぬらむ |
春歌上 |
巻一 |
0049 |
今年より 春知りそむる 桜花 散ると言ふことは ならはざらなむ |
春歌上 |
巻一 |
0058 |
誰しかも とめて折りつる 春霞 立ち隠すらむ 山の桜を |
春歌上 |
巻一 |
0059 |
桜花 さきにけらしな あしひきの 山のかひより 見ゆる白雲 |
春歌上 |
巻二 |
0078 |
ひと目見し 君もや来ると 桜花 今日は待ちみて 散らば散らなむ |
春歌下 |
巻二 |
0079 |
春霞 何隠すらむ 桜花 散る間をだにも 見るべきものを |
春歌下 |
巻二 |
0082 |
ことならば 咲かずやはあらぬ 桜花 見る我さへに しづ心なし |
春歌下 |
巻二 |
0083 |
桜花 とく散りぬとも 思ほえず 人の心ぞ 風も吹きあへぬ |
春歌下 |
巻二 |
0087 |
山高み 見つつ我がこし 桜花 風は心に まかすべらなり |
春歌下 |
巻二 |
0089 |
桜花 散りぬる風の なごりには 水なき空に 浪ぞたちける |
春歌下 |
巻二 |
0094 |
三輪山を しかも隠すか 春霞 人に知られぬ 花や咲くらむ |
春歌下 |
巻二 |
0115 |
梓弓 はるの山辺を 越えくれば 道もさりあへず 花ぞ散りける |
春歌下 |
巻二 |
0116 |
春の野に 若菜つまむと こしものを 散りかふ花に 道は惑ひぬ |
春歌下 |
巻二 |
0117 |
宿りして 春の山辺に 寝たる夜は 夢の内にも 花ぞ散りける |
春歌下 |
巻二 |
0118 |
吹く風と 谷の水とし なかりせば み山隠れの 花を見ましや |
春歌下 |
巻二 |
0124 |
吉野川 岸の山吹 吹く風に 底の影さへ うつろひにけり |
春歌下 |
巻二 |
0128 |
鳴きとむる 花しなければ うぐひすも はてはものうく なりぬべらなり |
春歌下 |
巻三 |
0156 |
夏の夜の ふすかとすれば 郭公 鳴くひと声に 明くるしののめ |
夏歌 |
巻三 |
0160 |
五月雨の 空もとどろに 郭公 何を憂しとか 夜ただ鳴くらむ |
夏歌 |
巻三 |
0162 |
郭公 人まつ山に 鳴くなれば 我うちつけに 恋ひまさりけり |
夏歌 |
巻四 |
0170 |
川風の 涼しくもあるか うちよする 浪とともにや 秋は立つらむ |
秋歌上 |
巻四 |
0232 |
たが秋に あらぬものゆゑ 女郎花 なぞ色にいでて まだきうつろふ |
秋歌上 |
巻四 |
0240 |
宿りせし 人の形見か 藤ばかま 忘られがたき 香に匂ひつつ |
秋歌上 |
巻五 |
0256 |
秋風の 吹きにし日より 音羽山 峰の梢も 色づきにけり |
秋歌下 |
巻五 |
0260 |
白露も 時雨もいたく もる山は 下葉残らず 色づきにけり |
秋歌下 |
巻五 |
0262 |
ちはやぶる 神のいがきに はふくずも 秋にはあへず うつろひにけり |
秋歌下 |
巻五 |
0276 |
秋の菊 匂ふかぎりは かざしてむ 花より先と 知らぬ我が身を |
秋歌下 |
巻五 |
0280 |
咲きそめし 宿しかはれば 菊の花 色さへにこそ うつろひにけれ |
秋歌下 |
巻五 |
0297 |
見る人も なくて散りぬる 奥山の 紅葉は夜の 錦なりけり |
秋歌下 |
巻五 |
0299 |
秋の山 紅葉をぬさと たむくれば 住む我さへぞ 旅心地する |
秋歌下 |
巻五 |
0311 |
年ごとに もみぢ葉流す 竜田川 みなとや秋の とまりなるらむ |
秋歌下 |
巻五 |
0312 |
夕月夜 小倉の山に 鳴く鹿の 声の内にや 秋は暮るらむ |
秋歌下 |
巻六 |
0323 |
雪降れば 冬ごもりせる 草も木も 春に知られぬ 花ぞ咲きける |
冬歌 |
巻六 |
0331 |
冬ごもり 思ひかけぬを 木の間より 花と見るまで 雪ぞ降りける |
冬歌 |
巻六 |
0336 |
梅の香の 降りおける雪に まがひせば 誰かことごと わきて折らまし |
冬歌 |
巻六 |
0342 |
ゆく年の 惜しくもあるかな ます鏡 見る影さへに くれぬと思へば |
冬歌 |
巻七 |
0352 |
春くれば 宿にまづ咲く 梅の花 君が千歳の かざしとぞ見る |
賀歌 |
巻七 |
0363 |
白雪の 降りしく時は み吉野の 山下風に 花ぞ散りける |
賀歌 |
巻八 |
0371 |
惜しむから 恋しきものを 白雲の たちなむのちは なに心地せむ |
離別歌 |
巻八 |
0380 |
白雲の 八重にかさなる をちにても 思はむ人に 心へだつな |
離別歌 |
巻八 |
0381 |
別れてふ ことは色にも あらなくに 心にしみて わびしかるらむ |
離別歌 |
巻八 |
0384 |
音羽山 こだかく鳴きて 郭公 君が別れを 惜しむべらなり |
離別歌 |
巻八 |
0390 |
かつ越えて 別れもゆくか あふ坂は 人だのめなる 名にこそありけれ |
離別歌 |
巻八 |
0397 |
秋萩の 花をば雨に 濡らせども 君をばまして 惜しとこそ思へ |
離別歌 |
巻八 |
0404 |
むすぶ手の しづくに濁る 山の井の あかでも人に 別れぬるかな |
離別歌 |
巻九 |
0415 |
糸による ものならなくに 別れぢの 心細くも 思ほゆるかな |
羇旅歌 |
巻十 |
0427 |
かづけども 浪のなかには さぐられで 風吹くごとに 浮き沈む玉 |
物名 |
巻十 |
0428 |
今いくか 春しなければ うぐひすも ものはながめて 思ふべらなり |
物名 |
巻十 |
0436 |
我はけさ うひにぞ見つる 花の色を あだなるものと 言ふべかりけり |
物名 |
巻十 |
0439 |
をぐら山 峰たちならし 鳴く鹿の へにけむ秋を 知る人ぞなき |
物名 |
巻十 |
0460 |
うばたまの 我が黒髪や かはるらむ 鏡のかげに 降れる白雪 |
物名 |
巻十 |
0461 |
あしひきの 山辺にをれば 白雲の いかにせよとか 晴るる時なき |
物名 |
巻十一 |
0471 |
吉野川 岩波高く 行く水の 早くぞ人を 思ひそめてし |
恋歌一 |
巻十一 |
0475 |
世の中は かくこそありけれ 吹く風の 目に見ぬ人も 恋しかりけり |
恋歌一 |
巻十一 |
0479 |
山桜 霞の間より ほのかにも 見てし人こそ 恋しかりけれ |
恋歌一 |
巻十一 |
0482 |
あふことは 雲ゐはるかに なる神の 音に聞きつつ 恋ひ渡るかな |
恋歌一 |
巻十二 |
0572 |
君恋ふる 涙しなくは 唐衣 胸のあたりは 色もえなまし |
恋歌二 |
巻十二 |
0573 |
世とともに 流れてぞ行く 涙川 冬もこほらぬ みなわなりけり |
恋歌二 |
巻十二 |
0574 |
夢ぢにも 露や置くらむ 夜もすがら かよへる袖の ひちてかわかぬ |
恋歌二 |
巻十二 |
0579 |
五月山 梢を高み 郭公 鳴く音空なる 恋もするかな |
恋歌二 |
巻十二 |
0583 |
秋の野に 乱れて咲ける 花の色の ちぐさに物を 思ふころかな |
恋歌二 |
巻十二 |
0587 |
まこも刈る 淀の沢水 雨降れば 常よりことに まさる我が恋 |
恋歌二 |
巻十二 |
0588 |
越えぬ間は 吉野の山の 桜花 人づてにのみ 聞き渡るかな |
恋歌二 |
巻十二 |
0589 |
露ならぬ 心を花に 置きそめて 風吹くごとに 物思ひぞつく |
恋歌二 |
巻十二 |
0597 |
我が恋は 知らぬ山ぢに あらなくに 惑ふ心ぞ わびしかりける |
恋歌二 |
巻十二 |
0598 |
紅の ふりいでつつ なく涙には 袂のみこそ 色まさりけれ |
恋歌二 |
巻十二 |
0599 |
白玉と 見えし涙も 年ふれば 唐紅に うつろひにけり |
恋歌二 |
巻十二 |
0604 |
津の国の 難波の葦の 芽もはるに しげき我が恋 人知るらめや |
恋歌二 |
巻十二 |
0605 |
手もふれで 月日へにける 白真弓 おきふし夜は いこそ寝られね |
恋歌二 |
巻十二 |
0606 |
人知れぬ 思ひのみこそ わびしけれ 我がなげきをば 我のみぞ知る |
恋歌二 |
巻十三 |
0633 |
しのぶれど 恋しき時は あしひきの 山より月の いでてこそくれ |
恋歌三 |
巻十四 |
0679 |
いそのかみ ふるのなか道 なかなかに 見ずは恋しと 思はましやは |
恋歌四 |
巻十四 |
0697 |
敷島や 大和にはあらぬ 唐衣 ころもへずして あふよしもがな |
恋歌四 |
巻十四 |
0729 |
色もなき 心を人に 染めしより うつろはむとは 思ほえなくに |
恋歌四 |
巻十四 |
0734 |
いにしへに なほ立ち返る 心かな 恋しきことに もの忘れせで |
恋歌四 |
巻十五 |
0804 |
初雁の 鳴きこそ渡れ 世の中の 人の心の 秋し憂ければ |
恋歌五 |
巻十六 |
0834 |
夢とこそ 言ふべかりけれ 世の中に うつつあるものと 思ひけるかな |
哀傷歌 |
巻十六 |
0838 |
明日知らぬ 我が身と思へど 暮れぬ間の 今日は人こそ かなしかりけれ |
哀傷歌 |
巻十六 |
0842 |
朝露の おくての山田 かりそめに うき世の中を 思ひぬるかな |
哀傷歌 |
巻十六 |
0849 |
郭公 今朝鳴く声に おどろけば 君に別れし 時にぞありける |
哀傷歌 |
巻十六 |
0851 |
色も香も 昔の濃さに 匂へども 植ゑけむ人の 影ぞ恋しき |
哀傷歌 |
巻十六 |
0852 |
君まさで 煙絶えにし 塩釜の うらさびしくも 見え渡るかな |
哀傷歌 |
巻十七 |
0880 |
かつ見れば うとくもあるかな 月影の いたらぬ里も あらじと思へば |
雑歌上 |
巻十七 |
0881 |
ふたつなき ものと思ひしを 水底に 山の端ならで いづる月影 |
雑歌上 |
巻十七 |
0915 |
沖つ浪 たかしの浜の 浜松の 名にこそ君を 待ちわたりつれ |
雑歌上 |
巻十七 |
0916 |
難波潟 おふる玉藻を かりそめの 海人とぞ我は なりぬべらなる |
雑歌上 |
巻十七 |
0918 |
雨により たみのの島を 今日ゆけど 名には隠れぬ ものにぞありける |
雑歌上 |
巻十七 |
0919 |
あしたづの 立てる川辺を 吹く風に 寄せてかへらぬ 浪かとぞ見る |
雑歌上 |
巻十七 |
0931 |
咲きそめし 時よりのちは うちはへて 世は春なれや 色の常なる |
雑歌上 |
巻十八 |
0980 |
思ひやる 越の白山 知らねども ひと夜も夢に 越えぬ夜ぞなき |
雑歌下 |
巻十九 |
1002 |
ちはやぶる 神の御代より 呉竹の 世よにも絶えず 天彦の... |
雑体 |
巻十九 |
1010 |
君がさす 三笠の山の もみぢ葉の色 神無月 時雨の雨の... |
雑体 |