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       題しらず 読人知らず  
527   
   涙川  枕流るる  うきねには  夢もさだかに  見えずぞありける
          
     
  • うきね ・・・ 舟などで水上で眠ること (浮き寝)
  
涙川に浮かぶ枕をしての浮き寝では、夢もはっきりと見えることがない、という歌。涙が川になって、その上を流れて行く枕をしての夢なので、ゆらゆらと揺れてはっきりと見えない、という趣向であろう。例のように "うきね" には 「憂き寝」が掛かっているのだろうが、その意味を強くとりすぎると歌がくどくなる。

  "枕流るる" は、そのまま読めば 「枕が流れて外れてしまう」という感じだが、それでは "浮き寝"
という味がでないように思えるので、ここでは枕と共にこの身が流れる、つまり、618番の業平が女に代わって詠んだ「涙川 身さへ流ると 聞かばたのまむ」の歌のようなニュアンスであると見ておきたい。 「涙川」を詠った歌の一覧は 466番の歌のページを参照。

  この歌の一つ前には次のような 「夜中夢に現れる」という歌があり、それをまた "見えずぞありける" と揺り返しているようにも思えるが、この歌で恋歌一の 「夢」の歌は終わりである。そう考えると夢から現実の辛さに戻る境目のような位置にあるとも言えるだろう。

 
526   
   恋ひ死ねと  するわざならし  むばたまの  夜はすがらに  夢に見えつつ
     
        また、「枕−夢」ということでは少し前に次の歌があるが、これを見ると絵巻のように少しづつ恋の状況が変わってゆくことを、歌の配列で表していることがわかる。

 
516   
   よひよひに  枕さだめむ   方もなし  いかに寝し夜か  夢に見えけむ
     

( 2001/08/14 )   
(改 2004/03/09 )   
 
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