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       題しらず 読人知らず  
642   
   玉くしげ  あけば君が名  立ちぬべみ  夜深くこしを  人見けむかも
          
     
  • 玉くしげ ・・・ 櫛箱の美称 (玉櫛笥)
  
夜が明けてから帰ると、あなたの噂が広まってしまうだろうからと、夜中に帰ってきたけれど、誰かが見たかもしれないな、という歌。

  櫛の箱を 「開ける」と夜が 「明ける」を掛けている。 "立ちぬべみ" の 「べみ」は、推量の助動詞「べし」の語幹に理由を表わす接尾語の 「み」がついたもの。 281番の「佐保山の ははそのもみぢ 散りぬべみ」という歌などにもこのかたちが使われている。

  "夜深くこし" の 「来(く)」は、ここでは自分が 「帰って来る」ということ。これは 622番の業平の歌の「あはでこし夜ぞ ひちまさりける」と同じ使い方である。 「夜深く」は 153番の友則の歌などにも出てくる 「夜深し」(ヨブカシ)の連用形で、夜中を表す。 "人見けむかも" は 「人+見+けむ+かも」で 「けむ」は過去の推量を表す助動詞「けむ」の連体形、「かも」は詠嘆の終助詞。 「かも」を使った歌の一覧については 664番の歌のページを参照。音の面では、 "玉くしげ" の 「くし」と "夜深くこし" の 「こし」が対応しているように見える。

  「君が名」を立てまい、という歌には次のような読人知らずの歌もある。

 
649   
   君が名 も  我が名も 立てじ   難波なる  みつとも言ふな  あひきとも言はじ
     

( 2001/11/15 )   
(改 2004/02/06 )   
 
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