Top  > 古今和歌集の部屋  > 巻三

       寛平の御時きさいの宮の歌合せのうた 紀友則  
153   
   五月雨に  物思ひをれば  郭公  夜深く鳴きて  いづち行くらむ
          
     
  • 五月雨 ・・・ 陰暦五月頃に降り続く雨
  • いづち ・・・ どちらに
  
五月雨(さみだれ)に物思いに耽っていると、夜深くホトトギスが鳴いて飛び去ってゆくのが聞こえる、あれはどこへゆくのだろう、という歌で、「五月雨−ホトトギス−夜」という道具立てが揃ったメリハリのある歌である。特に五月雨に物思いをする、という前半から、ホトトギスの声によっていきなり夜の闇に誘い込んでゆくような導き方が面白い。

  "夜深く" は「夜深し」という形容詞の連用形で、夜中に、ということ。 「夜深し」は 「ヨブカシ」であり、それに従えばこの歌の "夜深く鳴きて" は 「ヨブカクナキテ」であろうが、ここでは 「ヨルフカクナキテ」と字余りにした方が趣きがあるように思える。ちなみに古今和歌集の中で他に「夜深し」を使った歌としては、642番の「夜深くこしを 人見けむかも」と 1048番の「夜深からでは ;月なかりけり」というものがある。これらを見ると、この友則の歌だけ 「ヨルフカク」と読む必要もないようにも思えて微妙なところである。

  「五月雨」を詠った歌の一覧は 88番の歌のページを参照。

  また、 "いづち" という言葉を使っている歌としては、956番の「なほ憂き時は いづち行くらむ」という躬恒の歌や次の読人知らずの恋歌がある。

 
570   
   わりなくも  寝ても覚めても  恋しきか  心をいづち    やらば忘れむ  
     

( 2001/10/18 )   
(改 2004/02/26 )   
 
前歌    戻る    次歌