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       題しらず 紀友則  
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   下にのみ  恋ふれば苦し  玉の緒の  絶えて乱れむ  人なとがめそ
          
     
  • 玉の緒 ・・・ 珠をつなぐ紐・「絶ゆ」の枕詞
  
公表せずに隠したまま恋することは苦しいので、いっそのことすっかり心を乱してしまいたい、世間がどう思おうとも、という歌。

  「玉の緒−絶ゆ」とつなげているが、ここでの 「絶ゆ」は死ぬことではなく、53番の業平の「世の中に 絶えて桜の なかりせば」と同じで、「すっかり・まったく」という意味である。それを 「玉の緒が切れる」という 「絶ゆ」に掛けている。 「乱る」の程度にもよるが、勾玉のようなものをネックレスのようにかけているか、念珠かギリシャのコンボロイ(Komboloi)のようなものの、珠をつなぐ紐が切れて乱れ飛ぶイメージが美しい。

  万葉集・巻十一2788にこの歌と非常に似た次の歌があり、友則の歌はこの前半を「下に思う恋」に差し替えたと見ることもできる。

    息の緒に 思へば苦し 玉の緒の 絶えて乱れな 知らば知るとも

  "恋ふれば苦し" という表現は、541番の読人知らずの「よそにして 恋ふれば苦し 入れ紐の」という歌に見られ、一方この万葉集の歌にある 「思へば苦し」という表現は、次の読人知らずの歌の中に見ることができる。

 
496   
   人知れず  思へば苦し   紅の  末摘花の  色にいでなむ
     

( 2001/11/07 )   
(改 2004/01/06 )   
 
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