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       題しらず 読人知らず  
496   
   人知れず  思へば苦し  紅の  末摘花の  色にいでなむ
          
     
  • 末摘花 ・・・ ベニバナ
  
相手に知られずにじっと思いを秘めているのは苦しいので、表に出してしまおう、という決意を紅という目立つ色で表現した歌。

  この歌は恋歌一にあって、「気持ちを表に出してしまおう」と言っているが、恋歌三の同じ紅を使った 661番の友則の歌は「紅の 色にはいでじ 隠れ沼の」と 「表に出すまい」と言っている。また、この歌の 「紅」に対して 「紫」を使った次の歌も恋歌三にあり、まるでこの歌に対する未来からの返しのようにも見える。

 
652   
   恋しくは  したにを思へ  紫の   ねずりの衣  色にいづなゆめ  
     
        「紫」を詠った歌の一覧は、その 652番の歌のページを、「紅」を詠った歌の一覧は 723番の歌のページを参照。また、恋歌三には 669番の読人知らずの「おほかたは 我が名もみなと こぎいでなむ」という歌もあり、古今和歌集の恋歌は大きな流れとして恋の過程の順に並べられているが、このあたりの気持ちの違いは微妙である。 「色に出づ」という表現を使った歌の一覧は 663番の歌のページを参照。

  古今和歌集の中で「人知れぬ恋の思ひ」を詠った歌としては次のようなものがある。

 
     
496番    人知れず 思へば苦し  紅の  読人知らず
506番    人知れぬ 思ひやなぞと  葦垣の  読人知らず
519番    人知れず 思ふてふこと  誰にかたらむ  読人知らず
534番    人知れぬ 思ひをつねに  するがなる  読人知らず
538番    淵なれや  深き心を 知る人のなき  読人知らず
560番    草なれや  しげさまされど 知る人のなき  小野美材
565番    み隠れて  人に知られぬ 恋もするかな  紀友則
606番    人知れぬ 思ひのみこそ  わびしけれ  紀貫之


 
        その他、「人(妹)知るらめや」という言葉を使った 485番のページにある歌なども同じものと考えられる。また、恋歌三以降に出てくる 「人知れぬ」恋の歌については 632番の歌のページを参照。

 
( 2001/11/26 )   
(改 2004/03/06 )   
 
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