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       布引の滝のもとにて人々あつまりてうたよみける時によめる 在原業平  
923   
   ぬき乱る  人こそあるらし  白玉の  まなくも散るか  袖のせばきに
          
     
  • ぬき乱る ・・・ 玉を貫いている紐を抜いてばらばらにする
  • せばき ・・・ 狭さ
  詞書は一つ前の 922番の行平のものと同じ「布引の滝」を指しているが、こちらの方が詞書が長く、同じ時に同じ場所で詠まれたものかどうかははっきりしない。

  
緒から抜いて白玉をバラバラと落としている人がいるようだ、絶え間なく飛沫が散りかかってくるよ、受け止めようとするこの袖はそんなに広くないのに、という歌。

  "ぬき乱る" は 「貫き乱る」という字を当てるが、それだとどことなく 「貫き損なった」という感じがするが、「貫いてあったものを乱す」と解釈されるのが一般的であり、この歌でもその方が適しているだろう。 "まなくも散るか" の「か」は詠嘆の意味を表す終助詞。

  最後の "袖のせばきに" という言葉の出し方が意外で面白い。 「袖」の持ち主は、「ぬき乱る人」で 「袖が狭いのでそこから絶えず落ちる」と言っているとも考えられなくもないが、一般的には、作者・業平であると解釈されている。その線で考えると 「布引の滝」というそちらの 「布」は広いでしょうが、こちらの袖は狭いのですよ、というニュアンスのように見える。そして、「袖の狭さ」ということからは 865番の 「唐衣 袂ゆたかに たてと言はましを」という読人知らずの歌が思い出される。

  また、伊勢物語の第八十七段がこの歌を含んでいて、そこからこの歌に関連する部分を抜き出してみると次の通り。

 
     
  ...その家の前の海のほとりに遊びありきて、いざ、この山のかみにありといふ、布引の滝見にのぼらむ、といひてのぼりて見るに、その滝、物よりことなり。長さ二十丈、広さ五丈ばかりなる石の面(おもて)に、白絹に岩をつゝめらむやうになむありける。さる滝のかみに、藁蓋(わらうだ)の大きさして、さし出でたる石あり。その石の上にはしりかゝる水は、小柑子(せうかうじ)、栗の大きさにてこぼれ落つ。そこなる人にみな滝の歌よます。かの衛府の督(ゑふのかみ)まづよむ。

  わが世をば 今日か明日かと 待つかひの 涙の滝と いづれ高けむ

あるじ、次によむ。

    ・・・(歌)・・・

とよめりければ、かたへの人、笑ふことにやありけむ、この歌にめでゝやみにけり。 ...


 
        「藁蓋(わらうだ)」は藁で作った丸い敷物のこと。 「衛府の督」は在原行平がモデルであると言われている。  
( 2001/12/04 )   
(改 2004/02/04 )   
 
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