0863 |
我が上に 露ぞ置くなる 天の河 と渡る舟の 櫂のしづくか |
読人知らず |
0864 |
おもふどち まとゐせる夜は 唐錦 たたまく惜しき ものにぞありける |
読人知らず |
0865 |
うれしきを 何につつまむ 唐衣 袂ゆたかに たてと言はましを |
読人知らず |
0866 |
かぎりなき 君がためにと 折る花は 時しもわかぬ ものにぞありける |
読人知らず |
0867 |
紫の ひともとゆゑに 武蔵野の 草はみながら あはれとぞ見る |
読人知らず |
0868 |
紫の 色濃き時は めもはるに 野なる草木ぞ 別れざりける |
在原業平 |
0869 |
色なしと 人や見るらむ 昔より 深き心に 染めてしものを |
近院右大臣 |
0870 |
日の光 藪しわかねば いそのかみ ふりにし里に 花も咲きけり |
布留今道 |
0871 |
大原や をしほの山も 今日こそは 神世のことも 思ひいづらめ |
在原業平 |
0872 |
天つ風 雲のかよひぢ 吹きとぢよ 乙女の姿 しばしとどめむ |
良岑宗貞 |
0873 |
主や誰 問へど白玉 言はなくに さらばなべてや あはれと思はむ |
河原左大臣 |
0874 |
玉だれの こがめやいづら こよろぎの 磯の浪わけ 沖にいでにけり |
藤原敏行 |
0875 |
かたちこそ み山隠れの 朽ち木なれ 心は花に なさばなりなむ |
兼芸法師 |
0876 |
蝉の羽の 夜の衣は 薄けれど 移り香濃くも 匂ひぬるかな |
紀友則 |
0877 |
遅くいづる 月にもあるかな あしひきの 山のあなたも 惜しむべらなり |
読人知らず |
0878 |
我が心 なぐさめかねつ 更級や をばすて山に 照る月を見て |
読人知らず |
0879 |
おほかたは 月をもめでじ これぞこの つもれば人の 老いとなるもの |
在原業平 |
0880 |
かつ見れば うとくもあるかな 月影の いたらぬ里も あらじと思へば |
紀貫之 |
0881 |
ふたつなき ものと思ひしを 水底に 山の端ならで いづる月影 |
紀貫之 |
0882 |
天の河 雲のみをにて はやければ 光とどめず 月ぞ流るる |
読人知らず |
0883 |
あかずして 月の隠るる 山もとは あなたおもてぞ 恋しかりける |
読人知らず |
0884 |
あかなくに まだきも月の 隠るるか 山の端逃げて 入れずもあらなむ |
在原業平 |
0885 |
大空を 照りゆく月し 清ければ 雲隠せども 光けなくに |
尼敬信 |
0886 |
いそのかみ ふるから小野の もとかしは もとの心は 忘られなくに |
読人知らず |
0887 |
いにしへの 野中の清水 ぬるけれど もとの心を 知る人ぞくむ |
読人知らず |
0888 |
いにしへの しづのをだまき いやしきも よきもさかりは ありしものなり |
読人知らず |
0889 |
今こそあれ 我も昔は 男山 さかゆく時も ありこしものを |
読人知らず |
0890 |
世の中に ふりぬるものは 津の国の 長柄の橋と 我となりけり |
読人知らず |
0891 |
笹の葉に 降りつむ雪の うれを重み もとくだちゆく 我がさかりはも |
読人知らず |
0892 |
大荒木の もりの下草 おいぬれば 駒もすさめず かる人もなし |
読人知らず |
0893 |
かぞふれば とまらぬものを 年といひて 今年はいたく 老いぞしにける |
読人知らず |
0894 |
おしてるや 難波の水に 焼く塩の からくも我は 老いにけるかな |
読人知らず |
0895 |
老いらくの 来むと知りせば 門さして なしと答へて あはざらましを |
読人知らず |
0896 |
さかさまに 年もゆかなむ とりもあへず すぐる齢や ともにかへると |
読人知らず |
0897 |
とりとむる ものにしあらねば 年月を あはれあなうと すぐしつるかな |
読人知らず |
0898 |
とどめあへず むべも年とは いはれけり しかもつれなく すぐる齢か |
読人知らず |
0899 |
鏡山 いざ立ち寄りて 見てゆかむ 年へぬる身は 老いやしぬると |
読人知らず |
0900 |
老いぬれば さらぬ別れも ありと言へば いよいよ見まく ほしき君かな |
業平朝臣母 |
0901 |
世の中に さらぬ別れの なくもがな 千代もとなげく 人の子のため |
在原業平 |
0902 |
白雪の 八重降りしける かへる山 かへるがへるも 老いにけるかな |
在原棟梁 |
0903 |
老いぬとて などか我が身を せめきけむ 老いずは今日に あはましものか |
藤原敏行 |
0904 |
ちはやぶる 宇治の橋守 なれをしぞ あはれとは思ふ 年のへぬれば |
読人知らず |
0905 |
我見ても 久しくなりぬ 住の江の 岸の姫松 幾世へぬらむ |
読人知らず |
0906 |
住吉の 岸の姫松 人ならば 幾世かへしと 問はましものを |
読人知らず |
0907 |
梓弓 磯辺の小松 たが世にか よろづ世かねて 種をまきけむ |
読人知らず |
0908 |
かくしつつ 世をやつくさむ 高砂の 尾上に立てる 松ならなくに |
読人知らず |
0909 |
誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに |
藤原興風 |
0910 |
わたつみの 沖つ潮あひに 浮かぶ泡の 消えぬものから 寄る方もなし |
読人知らず |
0911 |
わたつみの かざしにさせる 白妙の 浪もてゆへる 淡路島山 |
読人知らず |
0912 |
わたの原 寄せくる浪の しばしばも 見まくのほしき 玉津島かも |
読人知らず |
0913 |
難波潟 潮満ちくらし 雨衣 たみのの島に たづ鳴き渡る |
読人知らず |
0914 |
君を思ひ おきつの浜に 鳴くたづの 尋ねくればぞ ありとだに聞く |
藤原忠房 |
0915 |
沖つ浪 たかしの浜の 浜松の 名にこそ君を 待ちわたりつれ |
紀貫之 |
0916 |
難波潟 おふる玉藻を かりそめの 海人とぞ我は なりぬべらなる |
紀貫之 |
0917 |
住吉と 海人は告ぐとも 長居すな 人忘れ草 おふと言ふなり |
壬生忠岑 |
0918 |
雨により たみのの島を 今日ゆけど 名には隠れぬ ものにぞありける |
紀貫之 |
0919 |
あしたづの 立てる川辺を 吹く風に 寄せてかへらぬ 浪かとぞ見る |
紀貫之 |
0920 |
水の上に 浮かべる舟の 君ならば ここぞとまりと 言はましものを |
伊勢 |
0921 |
みやこまで ひびきかよへる からことは 浪のをすげて 風ぞひきける |
真静法師 |
0922 |
こき散らす 滝の白玉 拾ひおきて 世の憂き時の 涙にぞかる |
在原行平 |
0923 |
ぬき乱る 人こそあるらし 白玉の まなくも散るか 袖のせばきに |
在原業平 |
0924 |
誰がために 引きてさらせる 布なれや 世をへて見れど とる人もなき |
承均法師 |
0925 |
清滝の 瀬ぜの白糸 くりためて 山わけごろも 織りて着ましを |
神退法師 |
0926 |
たちぬはぬ 衣着し人も なきものを なに山姫の 布さらすらむ |
伊勢 |
0927 |
主なくて さらせる布を 七夕に 我が心とや 今日はかさまし |
橘長盛 |
0928 |
落ちたぎつ 滝の水上 年つもり 老いにけらしな 黒き筋なし |
壬生忠岑 |
0929 |
風吹けど ところも去らぬ 白雲は 世をへて落つる 水にぞありける |
凡河内躬恒 |
0930 |
思ひせく 心の内の 滝なれや 落つとは見れど 音の聞こえぬ |
三条町 |
0931 |
咲きそめし 時よりのちは うちはへて 世は春なれや 色の常なる |
紀貫之 |
0932 |
かりてほす 山田の稲の こきたれて なきこそわたれ 秋の憂ければ |
坂上是則 |