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       同じ文字なきうた 物部吉名  
955   
   世のうきめ  見えぬ山ぢへ  入らむには  思ふ人こそ  ほだしなりけれ
          
     
  • ほだし ・・・ 束縛する物 (手かせ・足かせの類)
  • うきめ ・・・ つらいこと (憂き目)
  
この世のつらいことが見えない山の中に入るには、愛しく思う人こそが足かせである、という歌。

  物部吉名(もののべのよしな)は生没年不詳、古今和歌集にあるのはこの一首のみである。

  この歌は雑歌下にあるが、詞書に「同じ文字なきうた」とあるように、次の僧正聖宝(しょうほう)の 「はをはじめ、るをはてにて、ながめをかけて時のうたよめ、と人のいひければよみける」という物名の最後の歌や、羇旅歌にある 410番の業平の 「かきつばた」の折句と同様、言葉遊びが歌を作る動機になっていると思われる。それを考えると 「物部吉名」という名前も、はじめと最後を合わせると 「物名」になるので、あやしいと言えばあやしい。

 
468   
   花の中  目にあくやとて  わけゆけば  心ぞともに  散りぬべらなる
     
        この歌の文字の分布は次の通り。

 
   
 ん  わ  ら  や  ま  は  な  た  さ  か  あ
   ゐ  り  い  み  ひ  に  ち  し  き  い
   う  る  ゆ  む  ふ  ぬ  つ  す  く  う
   ゑ  れ  え  め  へ  ね  て  せ  け  え
   を  ろ  よ  も  ほ  の  と  そ  こ  お
  よ の う き め
  み え ぬ や ま ち へ
  い ら む に は
  お も ふ ひ と こ そ
  ほ た し な り け れ
       
        このうち 「見えぬ」の 「え」および 「入らむ」の 「い」はア行かヤ行かという問題があるが、ここではア行に寄せておいた。

  同じ文字がないということは、同語反復もないということである。構成する各要素がすべて異なっていても、それが 「うきめ」のように語を形成し、さらに五・七・五・七・七という五と七の繰り返しの中に乗せられることにより歌となっている様を表わしたものであると見ておきたい。また、この歌の他に  "ほだし" という言葉を使った歌としては、次の小野小町の歌がある。

 
939   
   あはれてふ  ことこそうたて  世の中を  思ひはなれぬ  ほだし なりけれ
     
        「うきめ」という言葉を使った歌の一覧は 755番の歌のページを参照。

 
( 2001/11/26 )   
(改 2004/02/06 )   
 
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