0933 |
世の中は 何か常なる 飛鳥川 昨日の淵ぞ 今日は瀬になる |
読人知らず |
0934 |
幾世しも あらじ我が身を なぞもかく 海人の刈る藻に 思ひ乱るる |
読人知らず |
0935 |
雁の来る 峰の朝霧 晴れずのみ 思ひつきせぬ 世の中の憂さ |
読人知らず |
0936 |
しかりとて そむかれなくに ことしあれば まづなげかれぬ あなう世の中 |
小野篁 |
0937 |
みやこ人 いかがと問はば 山高み 晴れぬ雲ゐに わぶと答へよ |
小野貞樹 |
0938 |
わびぬれば 身を浮草の 根を絶えて さそふ水あらば いなむとぞ思ふ |
小野小町 |
0939 |
あはれてふ ことこそうたて 世の中を 思ひはなれぬ ほだしなりけれ |
小野小町 |
0940 |
あはれてふ 言の葉ごとに 置く露は 昔を恋ふる 涙なりけり |
読人知らず |
0941 |
世の中の うきもつらきも 告げなくに まづ知るものは 涙なりけり |
読人知らず |
0942 |
世の中は 夢かうつつか うつつとも 夢とも知らず ありてなければ |
読人知らず |
0943 |
世の中に いづら我が身の ありてなし あはれとや言はむ あなうとや言はむ |
読人知らず |
0944 |
山里は もののわびしき ことこそあれ 世の憂きよりは 住みよかりけり |
読人知らず |
0945 |
白雲の 絶えずたなびく 峰にだに 住めば住みぬる 世にこそありけれ |
惟喬親王 |
0946 |
知りにけむ 聞きてもいとへ 世の中は 浪の騒ぎに 風ぞしくめる |
布留今道 |
0947 |
いづこにか 世をばいとはむ 心こそ 野にも山にも 惑ふべらなれ |
素性法師 |
0948 |
世の中は 昔よりやは うかりけむ 我が身ひとつの ためになれるか |
読人知らず |
0949 |
世の中を いとふ山辺の 草木とや あなうの花の 色にいでにけむ |
読人知らず |
0950 |
み吉野の 山のあなたに 宿もがな 世の憂き時の 隠れがにせむ |
読人知らず |
0951 |
世にふれば 憂さこそまされ み吉野の 岩のかけ道 踏みならしてむ |
読人知らず |
0952 |
いかならむ 巌の中に 住まばかは 世の憂きことの 聞こえこざらむ |
読人知らず |
0953 |
あしひきの 山のまにまに 隠れなむ うき世の中は あるかひもなし |
読人知らず |
0954 |
世の中の うけくにあきぬ 奥山の 木の葉に降れる 雪やけなまし |
読人知らず |
0955 |
世のうきめ 見えぬ山ぢへ 入らむには 思ふ人こそ ほだしなりけれ |
物部吉名 |
0956 |
世を捨てて 山にいる人 山にても なほ憂き時は いづち行くらむ |
凡河内躬恒 |
0957 |
今さらに なにおひいづらむ 竹の子の うき節しげき 世とは知らずや |
凡河内躬恒 |
0958 |
世にふれば 言の葉しげき 呉竹の うき節ごとに うぐひすぞ鳴く |
読人知らず |
0959 |
木にもあらず 草にもあらぬ 竹のよの 端に我が身は なりぬべらなり |
読人知らず |
0960 |
我が身から うき世の中と 名づけつつ 人のためさへ かなしかるらむ |
読人知らず |
0961 |
思ひきや ひなの別れに おとろへて 海人の縄たき いさりせむとは |
小野篁 |
0962 |
わくらばに 問ふ人あらば 須磨の浦に 藻塩たれつつ わぶと答へよ |
在原行平 |
0963 |
天彦の おとづれじとぞ 今は思ふ 我か人かと 身をたどる世に |
小野春風 |
0964 |
うき世には 門させりとも 見えなくに などか我が身の いでがてにする |
平貞文 |
0965 |
ありはてぬ 命待つ間の ほどばかり うきことしげく 思はずもがな |
平貞文 |
0966 |
つくばねの 木のもとごとに 立ちぞ寄る 春のみ山の かげを恋つつ |
宮道潔興 |
0967 |
光なき 谷には春も よそなれば 咲きてとく散る 物思ひもなし |
清原深養父 |
0968 |
久方の 中におひたる 里なれば 光をのみぞ たのむべらなる |
伊勢 |
0969 |
今ぞ知る 苦しきものと 人待たむ 里をばかれず 問ふべかりけり |
在原業平 |
0970 |
忘れては 夢かとぞ思ふ 思ひきや 雪踏みわけて 君を見むとは |
在原業平 |
0971 |
年をへて 住みこし里を いでていなば いとど深草 野とやなりなむ |
在原業平 |
0972 |
野とならば うづらとなきて 年はへむ かりにだにやは 君がこざらむ |
読人知らず |
0973 |
我を君 難波の浦に ありしかば うきめをみつの 海人となりにき |
読人知らず |
0974 |
難波潟 うらむべきまも 思ほえず いづこをみつの 海人とかはなる |
読人知らず |
0975 |
今さらに 問ふべき人も 思ほえず 八重むぐらして 門させりてへ |
読人知らず |
0976 |
水の面に おふる五月の 浮草の うきことあれや 根を絶えて来ぬ |
凡河内躬恒 |
0977 |
身を捨てて ゆきやしにけむ 思ふより 外なるものは 心なりけり |
凡河内躬恒 |
0978 |
君が思ひ 雪とつもらば たのまれず 春よりのちは あらじと思へば |
凡河内躬恒 |
0979 |
君をのみ 思ひこしぢの 白山は いつかは雪の 消ゆる時ある |
宗岳大頼 |
0980 |
思ひやる 越の白山 知らねども ひと夜も夢に 越えぬ夜ぞなき |
紀貫之 |
0981 |
いざここに 我が世はへなむ 菅原や 伏見の里の 荒れまくも惜し |
読人知らず |
0982 |
我が庵は 三輪の山もと 恋しくは とぶらひきませ 杉たてる門 |
読人知らず |
0983 |
我が庵は みやこのたつみ しかぞすむ 世をうぢ山と 人は言ふなり |
喜撰法師 |
0984 |
荒れにけり あはれ幾世の 宿なれや 住みけむ人の おとづれもせぬ |
読人知らず |
0985 |
わび人の 住むべき宿と 見るなへに 嘆きくははる 琴の音ぞする |
良岑宗貞 |
0986 |
人ふるす 里をいとひて こしかども 奈良のみやこも うき名なりけり |
二条 |
0987 |
世の中は いづれかさして 我がならむ 行きとまるをぞ 宿とさだむる |
読人知らず |
0988 |
あふ坂の 嵐の風は 寒けれど ゆくへ知らねば わびつつぞ寝る |
読人知らず |
0989 |
風の上に ありかさだめぬ 塵の身は ゆくへも知らず なりぬべらなり |
読人知らず |
0990 |
飛鳥川 淵にもあらぬ 我が宿も 瀬にかはりゆく ものにぞありける |
伊勢 |
0991 |
ふるさとは 見しごともあらず 斧の柄の 朽ちしところぞ 恋しかりける |
紀友則 |
0992 |
あかざりし 袖の中にや 入りにけむ 我がたましひの なき心地する |
陸奥 |
0993 |
なよ竹の よ長き上に 初霜の おきゐて物を 思ふころかな |
藤原忠房 |
0994 |
風吹けば 沖つ白浪 たつた山 夜半にや君が ひとりこゆらむ |
読人知らず |
0995 |
たがみそぎ ゆふつけ鳥か 唐衣 たつたの山に をりはへて鳴く |
読人知らず |
0996 |
忘られむ 時しのべとぞ 浜千鳥 ゆくへも知らぬ 跡をとどむる |
読人知らず |
0997 |
神無月 時雨降りおける ならの葉の 名におふ宮の ふることぞこれ |
文屋有季 |
0998 |
あしたづの ひとりおくれて 鳴く声は 雲の上まで 聞こえつがなむ |
大江千里 |
0999 |
人知れず 思ふ心は 春霞 たちいでて君が 目にも見えなむ |
藤原勝臣 |
1000 |
山川の 音にのみ聞く ももしきを 身をはやながら 見るよしもがな |
伊勢 |