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       題しらず 読人知らず  
140   
   いつの間に  五月来ぬらむ  あしひきの  山郭公  今ぞ鳴くなる
          
        おや、いつの間に五月が来たのだろう、ホトトギスの声がする、という、どことなく気の抜けた、のどかな感じの歌である。 「あしひきの−山郭公」という組み合わせは、この歌の他にも次の二つで使われており、いずれも読人知らずの歌なので古今和歌集の 「古・今」でいうと 「古」にあたるタイプなのかもしれない。

 
150   
   あしひきの    山郭公   をりはへて  誰かまさると  音をのみぞ鳴く
     
499   
   あしひきの    山郭公   我がごとや  君に恋ひつつ  いねがてにする
     
        この歌の "いつの間に" という言葉は 172番の読人知らずの「いつの間に 稲葉そよぎて 秋風の吹く」という歌でも使われているが、そちらが漠然と季節を言っているのに対し、この歌では "五月来ぬらむ" と月が限定されているため、わざとらしいと言うか、暦を重視する歌群の中で見ると少し違和感がある。しかし、"今ぞ鳴くなる" という伝聞推量の助動詞「なり」を使うことによって、「おや、なるほど、まさに今」という感じになっているためにバランスは失われていない。さらに一つ置いた次の友則の歌がそれをフォローしているようにも見える。 「鳴くなる」という言葉を使った歌の一覧は 1071番の歌のページを参照。

 
142   
   音羽山  今朝越えくれば  郭公  梢はるかに  今ぞ鳴くなる  
     
        また哀傷歌の部には、849番の「郭公 今朝鳴く声に おどろけば」という貫之の歌があり、ホトトギスの声を聞くという点では同じだが、「今ぞ鳴くなる」という感じと、鋭いホトトギスの声にハッとするという感じの違いがあるように思える。

  ちなみに、この歌の "五月来ぬらむ" は 「いつの間に・・・」という問いに対して「さっき来た」という駄洒落ではないようである。

 
( 2001/12/10 )   
(改 2004/02/20 )   
 
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