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       題しらず 読人知らず  
224   
   萩が花  散るらむ小野の  露霜に  濡れてをゆかむ  小夜はふくとも
          
     
  • 小野 ・・・ 野原
  • 露霜 ・・・ 露の歌語
  • 小夜 ・・・ 夜の歌語
  • ふくとも ・・・ 更けても
  
萩の花が散っているだろう野原の露に、濡れて行こうか、夜は更けるとも、という歌。

  「小野−小夜」を対として、 "散るらむ" の推量の助動詞「らむ」と "ゆかむ" の意志を表す(推量の)助動詞「む」の音の響きが心地よい。 「萩」を詠った歌の一覧は 198番の歌のページを参照。

  「小野」は地名とも考えられるが、 "小野" (野原)/ "露霜" (露)/ "小夜" (夜)、といういわゆる 「歌語」(=歌の中で飾られて使われる言葉)が散りばめられていると見たても面白いかもしれない。それらは一つ一つが小さなカプセルのようで、歌に弾力性を持たせて、よい結果となっている。

  また、 "濡れてをゆかむ" の「を」が気になるが、これは間投助詞と呼ばれるもので、「さあ」というような弾みをつけるような気持ちを表わしており、次の躬恒の歌にも見られる。

 
305   
   立ち止まり  見て わたらむ  もみぢ葉は  雨と降るとも  水はまさらじ
     
        この間投助詞「を」が使われている歌をまとめておくと次の通り。

 
     
224番    濡れてゆかむ  小夜はふくとも  読人知らず
305番    立ち止まり  見てわたらむ  凡河内躬恒
630番    昔も今も  知らずと言はむ  在原元方
652番    恋しくは  したに思へ  読人知らず


 
        イメージとしては散り落ちている萩の花と、辺りに広がる草葉に付いた透明な露の組み合わせが美しく、そこに "小夜" という黒い闇が差し込まれてゆく感じである。 「小夜が更ける」という表現が見られる歌としては他に次のようなものがある。

 
192   
   小夜中と    夜はふけぬらし   雁がねの  聞こゆる空に  月渡る見ゆ
     
452   
   小夜ふけて   なかばたけゆく  久方の  月吹きかへせ  秋の山風
     
648   
   小夜ふけて   天の門渡る  月影に  あかずも君を  あひ見つるかな
     

( 2001/11/29 )   
(改 2004/01/19 )   
 
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