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- むつまじみ ・・・ いとおしく思うので (睦まじ)
旅の途中ではないけれど、もうこれは秋の野に泊まるしかないか、オミナエシの女(をみな)という名をいとおしく思うので、という歌。 "旅ならなくに" は、ざっと読むと 「いとおしく思うので−旅にならない」と言っているように見えるが、「名をむつまじみ/旅ならなくに」と区切り、「旅ならなくに−宿りはすべし」であり、その理由が 「名をむつまじみ」と見た方が自然であるように思える。つまり、この 「なくに」は逆接(=旅でないのに)であろう。 「〜なくに」という言葉を使った歌の一覧は 19番の歌のページを参照。
ただこの "旅ならなくに" の解釈には諸説あって、例えば本居宣長は「古今和歌集遠鏡」の中でこの歌全体を「トマルナラ秋ノ野ニトマルガヨイ 女郎花ガアツテ女ト云名ガムツマシサニヨツテ寝ルヤウデハナイワサテ」と訳している。「名ガムツマシサニヨツテ寝ルヤウデハナイワサテ」の部分がわかりづらいが、どうも 「旅」を 「旅寝」と解釈して、「女郎花という名に誘惑されて寝るわけではない」という意味に見ているようである。また、「古今和歌集全評釈 補訂版 」 (1987 竹岡正夫 右文書院 ISBN 4-8421-9605-X) ではこの「なくに」を「詠みづめで、倒置法とは考えられぬ」として「反(か)へらぬなくに」(=逆接ではない「なくに」)の例であると解釈されている。
"宿りはすべし" の 「べし」は決意・確信/勧誘・命令などの意味があり、ここではどのニュアンスかわかりづらいが、65番の 「いざ宿かりて」の 「いざ」という気持ちが含まれているように思える。
また、この歌の背景には次の読人知らずの春の歌があるような感じがする。 「桜−女郎花」「里−野」という対比に加えて 「旅寝しぬべし」に 「旅ならなくに」と当てているようである。
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