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       題しらず 読人知らず  
497   
   秋の野の  尾花にまじり  咲く花の  色にや恋ひむ  あふよしをなみ
          
     
  • 尾花 ・・・ ススキの穂
  • よし ・・・ 手だて
  歌の意味は、
秋の野で尾花に混じって咲く花のように、気持ちを表に出して恋をしよう、そうしないと逢う手だてがないのだから、ということ。

  一つ前の 496番の歌が、人知れず恋しているのは苦しいので「末摘花の 色にいでなむ」と言っているのに対して、ススキの穂を人々の群れに見立て、その中であの人の目にとまるために "色にや恋ひむ" と前向きな気持ちを表している。また、「尾花=ススキの穂=花薄」とすると、549番の「花薄 などか穂にいでて 恋ひずしもあらむ」のように周りはみんな気持ちを表に出している(=「穂に出づ」)中、自分も頑張ります、と言っているようにも見える。

  最後に空きを埋めるように置かれた "あふよしをなみ" という言葉が面白い響きを持っている。これは 「逢ふ+よし+を+無+み」で「無(な)」は形容詞「無し」の語幹で、「み」は理由を表わす接尾語。 「〜を+形容詞(の語幹)+み」というかたちを持っている歌には次のようなものがある。

 
     
23番    春の着る  霞の衣 ぬきを薄み  在原行平
211番    夜を寒み  衣かりがね 鳴くなへに  読人知らず
228番    女郎花  名をむつまじみ 旅ならなくに  藤原敏行
416番    夜を寒み  置く初霜を はらひつつ  凡河内躬恒
497番    咲く花の  色にや恋ひむ あふよしをなみ  読人知らず
579番    五月山  梢を高み 郭公  紀貫之
663番    笹の葉に  置く初霜の 夜を寒み  凡河内躬恒
665番    みつ潮の  流れひるまを あひがたみ  清原深養父
672番    池にすむ  名ををし鳥の 水を浅み  読人知らず
694番    宮城野の  もとあらの小萩 露を重み  読人知らず
708番    須磨の海人の  塩やく煙 風をいたみ  読人知らず
758番    須磨の海人の  塩やき衣 をさをあらみ  読人知らず
781番    吹きまよふ  野風を寒み 秋萩の  雲林院親王
891番    笹の葉に  降りつむ雪の うれを重み  読人知らず


 
        ちなみに 640番の 「別れを惜しみ」や 653番の 「名を惜しみ」の 「惜しみ」は動詞「惜しむ」の連用形、644番の「夢をはかなみ」の 「はかなみ」も動詞「はかなむ」の連用形とも考えられるので一覧からはずしてある。

  この 「〜を+形容詞(の語幹)+み」の助詞「を」がなく、 50番の 「山高み」のようになっている例も多く、その他に理由を表す接尾語を使ったものとしては、「べし」と結びついた 281番の「散りぬべみ」などがある。 「よし(由)」という言葉を使った歌の一覧については 347番の歌のページを参照。

 
( 2001/11/26 )   
(改 2004/02/18 )   
 
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