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「なみのなカニハ サグラれで」に 「かにはざくら」を入れている。歌の意味は、潜っても浪の中では手探りで取ることもできない、風が吹くごとに浮き沈む玉は、ということ。物名の歌であることを差し引いても何を言いたいのかよくわからない歌である。
「かにはざくら」とは山桜の一種のカバザクラ(蒲桜)のことであると言われている。 918年頃に作られた 「本草和名」という本草書(草をメインとした薬の本)に、次のような記述があると、「古今和歌集全評釈(中)」 (1998 片桐洋一 講談社 ISBN4-06-205980-0) に書かれている。
桜桃、一名、朱桜。 和名、波々加乃美。一名、加爾波佐久良乃美 (桜桃。別名、朱桜。 日本名は 「ははかの実」または 「かにはさくらの実」)
「本草和名」では薬用としてその実のことを言っているのだが、歌にある "玉" も、同じ球体である実からの発想とも考えられる。 「波々加」の中には 「波」の文字が重なることから、題に即して考えると、かには桜は 「波々加」とも言うが、その実を求めるのに 「波」の中に潜っても見つけることはできない。なぜならそれは、空中にあって、風が吹くごとに浮き沈む玉なのだから、と言っているようにも思える。 とすると同じ貫之の 「水なき空に 浪ぞたちける」という 89番の歌も思い出される。
この歌の 「玉」を水の水滴と解釈する説もあるが、古今和歌集の配列から言えば、424番、425番の 「うつせみ」関係で見せた 「玉」とこの歌の 「玉」を連続しないように次の読人知らずの 「梅」の歌で一旦切っているとも考えられなくもない。
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