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       さうび 紀貫之  
436   
   我はけさ  うひにぞ見つる  花の色を  あだなるものと  言ふべかりけり
          
     
  • うひ ・・・ 初めて
  • あだ ・・・ はかない・移ろいやすい (徒)
  「われはけ
サ ウヒにぞみつる」という部分に題の 「さうび」が込められている。 「さうび」は薔薇(バラ)。歌の意味は、私は今朝初めて見たけれど、この花の色を見ての感想は、移ろいやすく、はかないものと言うべきものだった、ということ。 「べかりけり」という言葉を使った歌の一覧は 40番の歌のページを参照。

  「花の色」が 「あだなるもの」であるというのは特に意外性がなく、それをわざわざ "言ふべかりけり" と言っている意図がわかりづらい。少し筋をはずれて 62番の「あだなりと 名にこそたてれ 桜花」という歌から連想すると、ここで「初めて見た」のは 「花の色」ではなく、「女性の素顔・本性」であったと考えられないこともない。

  「あだなるもの」という言葉を使った歌としては、860番に「露をなど あだなるものと 思ひけむ」という藤原惟幹(これもと)の歌がある。 「あだ」という言葉を使った歌の一覧は 62番の歌のページを参照。また、「露−しづく−花」というつながりからは次の藤原敏行のウグイスの物名の歌が思い出される。

 
422   
   心から  花のしづくに  そほちつつ  うくひす とのみ  鳥の鳴くらむ
     
        一般的に言って、駄洒落(掛詞)が同音異義の言葉を源とするのに対して、物名(隠し題)はある言葉を別の言葉のつながりの中に見るものである。駄洒落では意味の強弱はあっても、各語は音を媒介とした独立関係にあるが、物名では題の側の言葉が意味を捨てて別の語群に寄生する。

 


        上の敏行の歌は、そのぶらさがった部分があらわで全体のバランスを崩しており、この貫之の 「さうび」の歌は、物名の部分はうまく隠れているものの全体がゆるくてしまりがない。忠岑の歌にも
 425番のようなものがあり、友則の歌にも 438番のようなものがある。まるでわざとヘンな歌を入れているかのようである。何故か、古今和歌集の撰者のうち躬恒だけは、駄洒落の歌は多いにもかかわらず、物名の部には一首も採られていない。

  ただし、貫之のこれ以外の物名の歌は、そうひどいわけでもなく、折句の 439番を除くと、次のようなになっている。

 
427   
   かづけども  浪のな かには    さぐら れで  風吹くごとに  浮き沈む玉
     
428   
   今いくか  春しなければ  うぐひ すも   ものはな がめて  思ふべらなり
     
460   
   うばたまの  我が黒 髪や    かは るらむ  鏡のかげに  降れる白雪
     
461   
   あしひきの  山辺にをれば  白雲の  いかにせ よとか    晴 るる時なき
     

( 2001/10/29 )   
(改 2004/03/10 )   
 
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