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       うめ 読人知らず  
426   
   あなうめに  つねなるべくも  見えぬかな  恋しかるべき  香は匂ひつつ
          
     
  • あな ・・・ なんと (感嘆詞)
  「あな
ウメに」(「あな憂+目に」)の中にウメを含む物名の歌であり、そこに隠された梅が歌の主題となっている。歌の意味は、残念なことに目に見えるその姿は永遠のものとは言えないようだ、恋しさを後まで残すに違いないその香りはまだこんなに匂っているのに、ということ。視覚と臭覚の記憶の持続性の違いを詠った歌である。 「匂ふ」という言葉を使った歌の一覧は 15番の歌のページを参照。

  "恋しかるべき"の「恋しかる」は「恋しく+ある」の短縮形で、この「べき」は "つねなるべくも" の「べし」とだぶっていて、太い二本の梁のような太い調子で歌を支えている。それはまた、間に置かれた "見えぬかな" という言葉の語感の柔らかさを際立たせる役割もしている。 「〜かるべし」という表現を使った歌の一覧については 270番の歌のページを参照。

  "あなう" は 「あな+う」で、現代では奇妙な響きに感じるが、古今和歌集の中ではこの歌の他に四つの歌で使われている。その中で印象深いものは、体言止めで終わっている小野篁の歌と 「卯の花」に掛けた読人知らずの歌の二つである。

 
936   
   しかりとて  そむかれなくに  ことしあれば  まづなげかれぬ あなう 世の中
     
949   
   世の中を  いとふ山辺の  草木とや あなう の花の  色にいでにけむ
     
        「あな」という感嘆詞を使った歌をまとめてみると次の通り。

 
     
426番    あなうめに  つねなるべくも 見えぬかな  読人知らず
695番    あな恋し  今も見てしか 山がつの  読人知らず
897番    年月を  あはれあなうと すぐしつるかな  読人知らず
936番    まづなげかれぬ  あなう世の中  小野篁
943番    あはれとや言はむ  あなうとや言はむ  読人知らず
949番    あなうの花の  色にいでにけむ  読人知らず
1016番    女郎花  あなかしかまし 花もひと時  僧正遍照
1060番    あな言ひ知らず  あふさきるさに  読人知らず


 
( 2001/08/20 )   
(改 2004/02/13 )   
 
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