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       これさだのみこの家の歌合せのうた 読人知らず  
582   
   秋なれば  山とよむまで  鳴く鹿に  我おとらめや  ひとり寝る夜は
          
     
  • 山とよむ ・・・ 山が響く
  「これさだのみこの家の歌合せ」の時の歌は、この歌を含めて二十三首が古今和歌集に採られているが、この歌以外は秋歌に置かれており、唯一この歌だけが恋歌二に置かれている。

  歌の内容は、
秋であるので鹿は山に響くように鳴くけれど、私もそれに劣ることはない、独り寝る夜は、ということ。"秋なれば" は 300番の清原深養父の歌で「神なびの 山をすぎ行く 秋なれば」と使われているものと同じで、「秋という季節であるので」ということ。現存する 「是貞親王家歌合」では、この歌の出だしは 「あきくれば」となっている。

  この歌は 197番の藤原敏行の「秋の夜の あくるも知らず 鳴く虫は」という歌をさらに深めたものと見ることができる(その敏行の歌も詞書に 「これさだのみこの家の歌合せのうた」とあるが、現存する「是貞親王家歌合」には載っていない)。ざっと読むと 「鹿の鳴き声に劣らず激しく泣く」という 「詩的なオーバーな表現」の歌のように見えるが、実際には 「私が泣くその気持ちは、鹿の嘆きの深さには負けない」ということで、「山とよむまで鳴く鹿」と音量で勝負しているわけではない。

  "我おとらめや" という反語と似たような表現で、ウグイスに対して 「我おとらましやは」と言っている歌に、次の春澄洽子(はるすみのあまねいこ)の春の歌がある。

 
107   
   散る花の  なくにしとまる  ものならば  我うぐひすに    おとらましやは  
     
        「鹿」を詠った歌の一覧は 214番の歌のページを、「ひとり寝」を詠った歌の一覧は 188番の歌のページを参照。

 
( 2001/11/27 )   
(改 2004/03/10 )   
 
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