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       人をしのびにあひ知りてあひがたくありければ、その家のあたりをまかりありきけるをりに、かりのなくを聞きてよみてつかはしける 大友黒主  
735   
   思ひいでて  恋しき時は  初雁の  なきて渡ると  人知るらめや
          
     
  • 初雁 ・・・ 秋になって渡ってくるはじめの雁
  詞書は、「密かに知り合ってその後もなかなか逢いにくかったので、その家の周りを歩き回っている時に雁が鳴くのを詠んでおくった」歌ということ。

  歌の意味は、
昔のことを思い出して恋しい時には、初雁が鳴いて渡るように、私が泣き続けていると、あなたは知っているだろうか、ということで、逢うことはできないけれど、二人が共通して見て聞くことができる雁の姿を通して思いを一つにしよう、ということをあまり器用でない言い方で言ったものと考えられる。 「思ひ出づ」という言葉を使った歌の一覧は、その 148番の歌のページを参照。

  「初雁」の歌としては秋歌上に次のような友則の歌がある。

 
207   
   秋風に  初雁がねぞ   聞こゆなる  たがたまづさを   かけてきつらむ
     
        この友則の歌は 「漢書」(蘇武伝)の 「雁信」の故事を元にしていると言われるが、"人知るらめや" というこの黒主の歌ともどこか通じるものがあるようにも感じられる。 「人知るらめや」という言葉を使った歌の一覧については 485番の歌のページを参照。

  「初雁」を詠った歌をまとめておくと次の通り。

 
     
206番    初雁  今朝鳴く声の めづらしきかな  在原元方
207番    秋風に  初雁がねぞ 聞こゆなる  紀友則
481番    初雁  はつかに声を 聞きしより  凡河内躬恒
735番    初雁  なきて渡ると 人知るらめや  大友黒主
776番    今朝初雁  音にぞなきぬる  読人知らず
804番    初雁  鳴きこそ渡れ 世の中の  紀貫之
1006番    初雁  なきわたりつつ よそにこそ見め  伊勢


 
( 2001/12/03 )   
(改 2004/03/09 )   
 
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