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       寛平の御時きさいの宮の歌合せのうた 在原棟梁  
243   
   秋の野の  草の袂か  花薄  穂にいでてまねく  袖と見ゆらむ
          
        「袂(たもと)」は本来 「手本」あるいは 「手元」で、肘から先の手の部分を指すが、ここでの "袖" 
と "袂" は、ほとんど同じ部分のことを、言葉を変えて言っているだけで、物名の部で 424番の在原滋春が「拾はばに はかなからむや」と言ったのに対して、忠岑が 425番で「より はなれて玉を つつまめや」と返しているものと同じであると考えられる。

  歌の意味は、
秋の野の袂だろうか、花ススキは、その穂の身振りで私を招く袖のようだよ、ということ。恋歌仕立ての姿のよい歌である。

  「穂に出づ」は隠していたものを明らかにするということで、ここでは他の秋の草より背丈が高く穂を出しているススキの様子を、「さあ、いらっしゃい」と気持ちを見せて招くものに見立てたものであろう。 「穂に出づ」という表現は次のような歌で使われている。

 
     
242番    花薄  穂にいづる秋は わびしかりけり  平貞文
243番    花薄  穂にいでてまねく 袖と見ゆらむ  在原棟梁
307番    穂にもいでぬ  山田をもると 藤衣  読人知らず
308番    刈れる田に  おふるひつちの 穂にいでぬ  読人知らず
547番    秋の田の  穂にこそ人を 恋ひざらめ  読人知らず
549番    花薄  などか穂にいでて 恋ひずしもあらむ  読人知らず
653番    花薄  穂にいでて恋ひば 名を惜しみ  小野春風
748番    花薄 (...)  穂にいでて人に 結ばれにけり  藤原仲平


 
        このうち 547番の歌は 「出づ」という言葉は使われていないものの、意味的には同じである。

  「秋と袖」を詠った歌としては、「菊の花のもとにて人の人待てるかたをよめる」という詞書のついた次の友則の歌がある。

 
274   
   花見つつ  人待つ時は  白妙の  袖かとのみぞ    あやまたれける  
     

( 2001/11/06 )   
(改 2004/02/26 )   
 
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