Top  > 古今和歌集の部屋  > 巻十五

       題しらず 読人知らず  
767   
   夢にだに  あふことかたく  なりゆくは  我やいを寝ぬ  人や忘るる
          
     
  • いを寝 ・・・ 眠る (寝を寝)
  
夢の中でさえ逢う機会が少なくなってきているのは、自分が眠らないからか、相手が自分を忘れてしまったからか、という歌。自分が眠れないのは、思い悩んでいるからであり、"人や忘るる" は、いわゆる 「夢に現われるのは相手が思っている証拠」という俗信がベースにあると思われる。 「だに」という言葉を使った歌の一覧については 48番の歌のページを参照。 "いを寝" は万葉集・巻二十4400にある次の大伴家持の歌などでも使われている。

    家思ふと  いを寝ず居れば  鶴(たづ)が鳴く  葦辺も見えず  春の霞に

  はじめの 「寝(い)」は眠るということを表す名詞。次の 「寝(ね)」は、横になるという意味の下二段活用の一語の動詞「寝(ぬ)」。この歌では打消の助動詞「ず」の連体形の 「ぬ」がついて未然形の「寝(ね)」となり、"いを寝ぬ" は 「イヲネヌ」と読む。また、「寝ぬ」(いぬ)という下二段活用の動詞もあり、これは 「いを寝」が変形したものと考えられ、どちらも意味としては、横になって眠るということである。これらが使われている歌をまとめておくと次の通り。

 
        名詞 「寝(い)」+動詞 「寝(ぬ)」  
     
767番    我や  人や忘るる  読人知らず
1022番    たたるに我は  かねつる  読人知らず


 
        動詞 「寝ぬ(いぬ)」  
     
220番    ひとりある人の  いねがてにする  読人知らず
499番    君に恋ひつつ  いねがてにする  読人知らず


 
        ちなみに、803番の兼芸法師の「秋の田の いねてふことも」という歌は 「稲」に 「往ね(=向こうに行きなさい)」を掛けてあって、「寝(い)ぬ」ではない。

  この歌の "我やいを寝ぬ  人や忘るる" に似た言葉遣いの歌としては、377番の読人知らずの離別歌に「我や忘るる 人やとはぬと」というものがある。 「あふことかたし」と言っている歌の一覧については 765番の歌のページを参照。

 
( 2001/10/02 )   
(改 2004/02/15 )   
 
前歌    戻る    次歌